こんにちは。今回は連載第5回目です。この連載では、今さら聞けないCAD関係の基礎知識を、こっそり読んで身につけていただく手助けとして役立てていただければいいなと考えています。

今回も引き続き、いろんなCAD製品の説明文によく出てくる、わかってるようでよくわかってないかもしれないカタカナ用語について解説してみたいと思います。

以下は、架空の3D CAD製品の特徴を説明した文章で、第4回でご紹介した文章に続けて書かれていることを想定しています。

この製品は、パーツ設計機能においてパラメトリック モデリング、およびダイレクト モデリングと2つのモデリング手法を使用することができ、設計する製品の特徴や設計の仕様に合わせて柔軟に使い分けながら設計を進めることができます。また、ソリッド モデリングのみならず、サーフェス モデリングも可能で、デザインを重視して滑らかな曲面が必要となる製品の設計にも柔軟に対応することができます。(ここまでが前回)

また、昨今の3D プリンターの普及により、設計した3DデータをSTL形式またはOBJ形式ファイルにエクスポートする機能を搭載しています。また、メッシュデータをインポートし、形状の修正や修復する機能が新たに追加されました。

いかがでしょうか?ファイル形式の名称である「STL」や「OBJ」は、本連載の第3回でも少しだけ触れました。これら形式のデータは、よく「メッシュデータ」と呼ばれるものです。

「メッシュデータ」という言葉を聞いたことがある方は多いかもしれませんが、これがどのようなものかを正しく説明することはできますか?

ということで、今回はメッシュデータについてお話しします。

メッシュは三角形の集まり

3Dプリンターがプリントを実行するためには、G-codeという、3Dプリンターが実際に加工を実行するために制御するコードを使用します。3D CADで作成したソリッドやサーフェスのデータを直接G-codeに変換することはできず、メッシュデータを使用してG-codeに変換します。そこで、各3D CAD製品や3D CG製品は、各々メッシュデータ(STL または OBJ)に変換してエクスポートする機能を搭載しています。(各社の3Dプリンターは、受け取ったメッシュデータを表示し、プリント準備とG-code変換を行うアプリケーションを提供しています。) ちなみにSTL、OBJともに、3D形状を三角形の集合体で表現したもので、厳密には「メッシュ」とは、この三角形を指します。三角形の集まりなので、例えばカーブは正確には多角形に変換されますので、元の形状を100%正確には再現できません。そこで、STLやOBJに変換する際に、多くのCADでは精度が設定できるようになっています。より詳細に設定することで元の形状に限りなく近付けることができますが、そのかわりにデータ容量が重くなります。従って、実際には目的や用途に応じて精度をコントロールして使用するのが一般的です。

・Fusion 360(オートデスク社)の場合

STLの精度を中程度に設定:三角形の数が約4000

STLの精度を高精度に設定:三角形の数が約10000

ではなぜファイル形式がSTLとOBJの2種類あるのでしょうか?

OBJは、元々Wavefront Technologies社(現在は買収により存在していない)のAdvanced Visualizerというソフトウェアのために開発されたファイル形式です。Wavefront Technologies社は、CG用ソフトウェアの開発会社であったため、現在もその技術がCGソフトウェアの中で利用されています。

STLは、3D Systems社が3D CAD用に開発したファイル形式です。3D CAD用に開発されたものなので、CADではこの形式に変換できる機能を搭載することが標準になっています。最近はCAD製品でもOBJ形式にエクスポートできるものが増えてきましたが、STLエクスポート機能のみをサポートしているものもまだまだ多いのが現状です。3D プリンターにデータを渡すだけであれば、STLエクスポート機能があれば十分です。

では次に、最初の紹介文の中に「また、メッシュデータをインポートし、形状の修正や修復する機能が新たに追加されました。」という記載がありましたが、そもそもなぜメッシュデータを修正する必要があるのでしょうか?CADからSTLやOBJにエクスポートしても、そのままでは3D プリントができないのでしょうか?

実は、そのままではプリントできない場合があります。 エクスポートしたデータが正しく閉じられていればプリントできますが、部分的に隙間が空いてしまったりしているデータではプリントができません。平面と円や円弧のみの単純な形状であればあまり不具合を起こすことはありませんが、曲面を多用していたり、複雑な詳細形状が含まれているデータの場合、このような現象が起こる可能性があります。

そこで、実際にはSTLやOBJに変換したデータがきちんとプリントできるデータであるかどうかを、3Dプリンターに渡す前に確認するのが確実です。

オートデスク社のFusion 360は、STL等のメッシュデータを読み込んで、不具合のある箇所を修正したりする機能が搭載されています。CADにこの機能が搭載されているものはまだまだ少ないので、その他のCADを使用される(されている)場合は、インターネットを検索するとビューアソフトウェアがいろいろと見つかりますので、試してみると良いでしょう。

今回は、CADからちょっと派生して、3Dプリンターに関わるところを解説しました。

では次回もまた、「よく見かけるけど意味がわかってない言葉、ありませんか?」シリーズで、CAD用語をご紹介する予定です。お楽しみに!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。