こんにちは。ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか? 私は外出できない事情により、インドアで引きこもり続けるというあまり楽しくない状況でした。これからは外が気持ち良い季節なので、なんとか少しでもアウトドアで明るく過ごしたいと考えています。
さて、先日頂いたお仕事において、2次元図面から3Dモデルを作成するという作業を行いました。その中で興味深いことに気づいたので、今回はそのお話をしてみます。
そのお仕事で依頼いただいた内容には多くの図面があったのですが、特に典型的だったのがこの図(図‐1)です。一見、とても単純な形状に見えます。
図面を参照しながらモデリングを始めたところ、まずは「押し出し」だけでは作ることができないことに気が付きました。平面のみで成り立っている部品と聞いていたのですが、それなら基本的には「押し出し」のみで作成できるはず。形状によっては部分的にロフトを使用するぐらいで済むはずです。
しかし、どうしても手前に見える面積の大きい四角い面は平面にすることができませんでした。そこで、エッジの位置はきちんと元の図を踏襲した上でサーフェスも組み合わせて、なんとか図面どおりの形状を作ってみました。
でき上がったモデルがこちら(図‐2)です。
この状態では当初の想定どおり、平面のみで成り立っている形状ができているように見えます。しかし手前の四角い面は平面ではないはずなので、確認の作業を行ってみました。
多くの3D CADには面の状態を確認する機能が備わっています。その中から、面の状態を知ることができる方法をいくつか実施しました。
まずは「サーフェス」解析です。これは表面の曲率を確認するものです。この図(図‐3)では中央の大きい面の下側の角にカラーグラデーションが確認できます。このグラデーション部分が平坦ではなく曲面であるということがわかります。他の面はすべて単色です。つまりこれらは平面だということになります。
こちらは「ゼブラ」(CADによっては「ゼブラ ストライプ」と呼ぶものもある)解析というものです。「平滑性」を確認するもので、元々は3Dモデル内の面の連続性を確認するためのものです。これを使用すると平面は直線のストライプ、曲面はカーブのストライプで表現されます。
この図(図‐4)を見るとやはり中央の大きい面のみがカーブのストライプになっているので、この確認方法でも、この面は平面ではなく曲面であるということがわかります。
そしてこちらは「曲率」解析というもので、面の曲率をカーブで表現します(図‐5)。解析を実行する面を選択する際、この方法では「平面」を選択することはできません。この部品内で選択できる面は大きい台形の面のみであり、やはり曲面の状態になっていることがわかります。
ちなみに曲率が一定である真円の円柱表面は、このカーブの大きさが一定になります。(図‐6)
このほか、CADを使わないで確認する方法もあります。3D モデルデータをPDFに埋め込んだものを使用します。
最近の3D CADは、3Dデータを3D PDFとして保存する機能が付いています。これを利用して作成したPDFファイルを開くと、PDFドキュメント内で3Dデータを閲覧・計測したり、注釈の追加などが行えます。この閲覧の際に「描画モード」をさまざまに切り替えることができます。この中で「ワイヤフレーム」系の表示を使用すると、平面であれば頂点間を結ぶエッジのみが表示されますが、曲面の場合は以下の図(図‐7)のようにエッジが交差するなど、ランダムな表示になります。
以上のように、どう見てもあきらかに曲面が存在していることがわかりました。
上記で示した面の解析機能は、本来であれば曲面形状を作成した場合に、その表面が美しく滑らかに、そして思い通りにでき上がっているかどうかを確認するために使用するものです。したがって、断面を平行移動して作成する「押し出し」や平面曲線を1つの軸回りに回して作成する「回転」といった、一定の規則のもとに成り立つ形状を作成する際には必要ありません。
ですが、今回のケースのように変則的な形状を作成する場合には、作り方によってどのような面ができ上がるか、その結果は目視のみでは不可能なので、このような機能を使用して確認します。
なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか? それは明白で、二次元図面を描く際には完成状態を「想像して」描くことになるからです。頭の中で思い描いた形状を紙の上に表現するわけですが、そもそも完成状態は頭の中での想像なので、それ自体が現実と異なる可能性が多々あり得ることになります。
この連載でも、過去に「2次元図面の立体化はなぜ自動化されていないのか」というテーマでお話していますが、やはり2次元図面を手がかりに立体化をするには、現段階では人の手による再設計と確認が必要になっているのです。
3D CADが普及する以前には、このような設計ミスが頻繁に起こっていたのではないでしょうか? 3D CADで設計すればこのような検証も簡単に行えますので、設計の効率化を達成できるのではと思います
数年前に比べると、設計から納品までのプロセスでまったく3D CADは使わないというケースはあまり聞かなくなりました。ですが、急いで出図しなければならないというような時に、慣れた2D CADで作図してそのまま出図するといったような場合に、うっかりこのような設計をしてしまわないように気を付ける必要がありますね。
ではまた次回をお楽しみに!
著者紹介
草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。