こんにちは。お盆が過ぎて灼熱の夏は終わったのかと思ったら、また蒸し暑さが戻ってきて、やはりまだまだ夏だなと実感する今日このごろですね。皆さまも体調を崩されないよう、ご自愛ください。
さて、前回の記事では3D形状を作成する手順の重要性をお話しました。今回は、その3D形状の大きさや形状を決定する寸法の記入方法についてお話していきます。なお、ここでのお話はパラメトリック系3D CADの話になります。
前回の記事同様、立体形状を作成するための元となる2Dスケッチに対する寸法の記入方法には「最良な1つ」の回答は存在しません。「最良」は状況によって異なるからです。
入門書などでは、「スケッチを描いたら寸法を入れましょう」と書いてあります。確かに描いたスケッチに寸法を追加することで大きさを決定しますので、重要な作業ですし、最終的には寸法を入れて大きさを確定する必要があります。しかし、スケッチを描いた「直後に」「必ず」寸法を追加しなければいけないのでしょうか?
実は、「必ず」ということはありません。すぐに入れた方が良い場合もありますし、後回しでよい場合もあります。繰り返しになりますが、答えは1つではありません。
先に寸法を入れればその記入した値で大きさは固定されます。大きさを変更しなければいけなくなったら、その寸法を入れたスケッチに戻って値を修正します。寸法の入力を後回しにした場合、大きさはフレキシブルになり、スケッチ環境内でスケッチをドラッグすることで大きさや位置を変えることができます。
各々、大きさを変えたい時の動作が異なりますが、寸法の有無によりその時点で大きさが固定されているかどうかがポイントになります。CADシステム的には寸法が入っていてもいなくても関係ありませんが設計としては、最終的に寸法は必要となります。従って、使う側が各々の性質を理解して、使い分けるのが賢い方法です。
では、どのように使い分ければ良いのでしょうか?例えばその部品のその部分の形状が全体の基準となっていて、そこはほぼ変更の可能性が無いというような場合は、早い段階で寸法を入れてしまった方がいいでしょう。この図のように、外形の大きさは最初から寸法を入れて、設計変更がない限り固定してしまいます。もしも大きさを変更することになった場合は、寸法の値を書き直すことで変更することができます。
では、ある部分はまだ大きさをはっきりと決められていなくて、試行錯誤しながら少しずつ大きさを変えてみるなどの作業をしたいという場合、寸法が記入してある場合はその数値を少しずつ入力し直して調整することになります。寸法を記入していなければドラッグによって移動させることができるので、目視しながら調整することも可能になり、都度数値を修正するよりも手数が少ないので、操作は楽になります。
この例の場合はどちらが正解ということは言えません。寸法が入っているかどうかの違いにより、幅を変えたい場合の操作方法が異なるだけです。とはいえ、寸法を入れてあると、現在の値が目で見てわかるというメリットがあります。ドラッグの方が操作は楽ですが、常に現在の値がわかった方が都合が良いのであれば、早い段階で寸法を記入した方がよいでしょう。
寸法を先に入れるか、後に入れるか、その両方のメリット・デメリットを理解することは、3D CADを使いこなせるようになる近道ということです。このように、違いがわかれば自ずと自分にとって適切なやり方が見えてくるはずです。なかなか理解が進まなかったら、まずはどちらかのやり方で進めてみて、どうも使い勝手が…と思った時点で変えてみるとか、そういった試行錯誤も有効だと思います。
ここまでお話した内容は、ほとんどのパラメトリック系3D CADでの共通するテクニックです。さらに、各CADシステムではこのようなシーンにおいて、便利な機能が搭載されているケースがあったり、操作手順内での微細な差異があったりするので、ご自身が使用している3D CADの機能を理解すれば、目的のためにはどの機能をどのタイミングで使用すればよいかが、さらによくわかってきます。
以下はその一例です。ここで使用しているCADはAutodesk Inventorです。スケッチの寸法を変更するには、フィーチャーのリストに表示されたスケッチのメニューからスケッチの寸法を表示し、数値を入力し直します。入力が完了した時点ではまだ3D形状は更新されません。更新ボタンを押して初めて3D形状が更新されます。
Inventorの場合
こちらは同じ操作をAutodesk Fusion 360で行ったものです。メニューは異なりますが、スケッチのリストから対象のスケッチ寸法を表示し、数値を入力し直すところまで、実行している内容は同じです。ただし、Fusion 360の場合は入力を完了すると同時に3D形状も更新されます。
Fusion 360の場合
このように、同じ操作をするにもCADソフトによって細かな差があります。この例の場合は即時に更新された方が楽なような気がしますが、もしこの部品がとても複雑な形状だった場合はどうでしょう?この部品の場合は穴の位置が外形からの距離で設定されているので、外形の大きさが変わっても穴と穴の距離は更新されますが、外形からの距離は変わりません。単純な部品なので目で見てすぐにわかりますが、1か所の寸法の変更が、他の部分の形状に影響を与える場合があります。複雑な部品の場合を即時に更新されるCADで作るのであれば、事前に影響する範囲を考えておかなければなりません。ですが、更新ボタンを自分で押すタイプのCADであれば、スケッチのみ更新してみて、目視で判断することも可能になります。
いかがでしたか?理解してしまえばなんていうことはないのですが、「3D CADを勉強するんだ!」と意気込んでしまうと、使うのが難しいツールだという先入観が入りやすいと思います。しかし、やることは2Dで設計する場合と基本的には同じ考え方で進めればよいので、気軽にまずは何か作ってみて、いろいろと試行錯誤していただくと良いと思います。
ではまた次回をお楽しみに!
著者紹介
草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。