市場動向調査会社Informa/Omdia主催の「第39回 ディスプレイ産業フォーラム」において、日本のディスプレイ製造メーカーとして残存している日の丸FPD連合ともいえるジャパンディスプレイ(JDI)および台湾鴻海精密工業傘下のシャープの現状と今後について、台湾駐在の日本・台湾担当アナリストのLinda Lin氏が調査結果を発表した。
Apple頼みから脱却できないJDI
AppleのiPhone11(6.1型)LCDモデルの需要増により、茂原工場の稼働率は2020年前半は70%~80%という高い稼働率を維持できた。第4四半期以降、Appleの需要がやや落ち込み、そして2021年以降は急激に低下する可能性が高い。また、車載パネルは、新型コロナの影響で世界的に需要が落ち込んでおり、第4-4.5世代のファブの稼働率が低い状況となっている。
2019年1月より始まったApple Watch用1.78型小型有機ELパネルの量産だが、需要が伸びておらず、2020年上半期のガラス基板投入量は月産2000枚程度で、出荷個数も150万個程度にとどまったという。また、シャープに売却された白山工場での今後のオペレーションについては、JDI、シャープ、Appleの間で未確定な要素が多く、いずれは公式発表があるとの見方を示した。
シャープとの関係強化を図るApple
シャープのディスプレイ工場に関しては、堺ディスプレイプロダクツ(SDP)のテレビ向け第10世代パネル工場がフル稼働状態にある。
SDP傘下の中国広州の超視堺国際科技広州(SIO)の第10.5世代工場も稼働率を急速に高めているが、新型コロナ対策用マスクを製造していることで知られるシャープ亀山工場の稼働率は4割程度と低い。「シャープは、デイスプレイビジネスを分社化することにしているが、買収したJDI白山工場の今後の扱いとともに成り行きが注目される」とLin氏は述べている。
今回の講演後の10月1日、シャープはディスプレイ事業の意思決定を迅速化するとともに、他社からの出資による外部資金獲得を視野に入れ競争力を確保するとの理由でディスプレイ事業をシャープ本体から切り離して分社化した。
新たに誕生した子会社は、シャープディスプレイテクノロジー(本社は亀山事業所内)で三重事業所、堺事業所、買収したJDI工場のディスプレイ事業を傘下に入れる。液晶や有機ELに加え、マイクロLEDなど次世代ディスプレイの開発も担当する。シャープは、半導体事業を一足先に分社化したが、外部資金獲得ができず、福山事業所の一部を三菱電機に切り売りして延命しようとしており、シャープ解体に向けた分社化の前途は多難である。
Lin氏は「Apple iPhoneのLTPS LCDパネルサプライヤであるJDIや韓LG Displayは2020年の供給量を減らす可能性がある。シャープにとってJDIの白山工場を買収したことは、LG Displayに代わってLTPS LCDモバイルパネルをAppleへもっと多く供給する絶好の機会である」と述べている。
シャープはJDI白山工場の建屋とクリーンルーム、Appleは製造設備をそれぞれJDIから取得し、シャープ・Apple連合は第6世代(G6)基板で月間2.6万枚のLTPS製造能力を手に入れたことになる。
このため、JDIはiPhone用の供給シェアが下がるだろうが、スマホ用の売上構成比を7割から5割に下げていく経営戦略に基づく売却とみられており、これにより、2021年にはiPhone液晶モデルの供給シェアでシャープがJDIを逆転する見込みである。
最後にLin氏は、「日本のディスプレイメーカー2社は、財政的な危機的状況から脱するために、外部の支援が必要な状況である。シャープは、有機ELビジネスを統合するために、Appleから財政的および技術的支援を必要としている。JOLEDはついにインクジェットプリンティングビジネスを協業するパートナーとして中国メーカー(TCL/CSOT)を見出した。JDIは、近い将来、Appleからの液晶パネル需要が減ることを見越してもっと新しい顧客を見いだす営業努力が必要である」と述べている。
2020年のディスプレイ産業はどうなるのか?
Omdiaのディスプレイ技術・投資担当アナリスト(京都駐在)のCkarles Annis氏は、2020年年央時点におけるディスプレイ業界を以下のように総括した。
- 2020年はまれにみる驚きの連続の年である。ディスプレイ業界は、4月から5月にかけて悲観的な見方一色であったが、在宅勤務や在宅授業や自宅でのビデオゲームがニューノーマルになるにつれて消費者は電子機器のアップグレードをするようになり、市場はポジティブな方向に変換した。デイスプレイ業界への新型コロナウイルスの影響は、ほかの多くの産業とは異なり良い方向に向かっている。デイスプレイ産業の2021年の見通しはポジティブである。
- 2020年第3四半期はディスプレイのすべての応用分野で需要が戻ってきた。パネルメーカーは第3四半期に黒字転換できる見込みである。
- 中TCL SCOTのSamsung中国工場買収やシャープのJDI白山工場買収は、ディスプレイ業界にとってポジティブな動きである。
- 中国の新しいファブの立ち上げが新型コロナの影響で遅れている。
- 韓国の液晶製造ラインの閉鎖も遅れている。一方、中国勢は、生産能力を徐々に増やしている。ディスプレイの需要が2021年に期待通りだと、韓国勢の液晶撤退でディスプレイ供給がタイトになる可能性があり、中国勢にとっては追い風となろう。
以上を踏まえて、恒例の2021年ディスプレイ産業天気予報(景気予測)を描くと、ディスプレイ業界全体としては、曇りから晴れに転じることが予測されるという。マクロ経済は、新型コロナウイルスで2020年は雨模様であったが2021年は曇りとなる。生産能力の増強や設備投資は雨模様になるが、それ以外(財務状況、需給バランス、ファブ稼働率、有機ELビジネス、在庫状況)については2020年後半から回復基調で2021年にはすべて晴れとなることが期待される。Annis氏は「来るべき2021年に期待をかけたい」と話を結んだ。