英国に本拠を置く市場動向調査会社Informa/OMDIA主催の「第39回 ディスプレイ産業フォーラム」が9月3日、4日の日程でバーチャル開催された。同フォーラムは、OMDIAの前身のIHS Markitやその前身のDisplay Search時代から毎年、1月と7月の2回、世界ディスプレイ産業の動向調査結果に基づく予測をセミナー形式で発表してきたが、今年の7月版の開催は、新型コロナウイルスの影響で1カ月余り遅れたうえ、すべてバーチャルでの開催となった。ちなみに、会議セッションは12月3日までオンラインで利用することが可能となっている。

同フォーラムでは、日本、台湾、韓国、中国に駐在するディスプレイ分野のアナリストたちが、ディスプレイ産業の最新動向を紹介したが、本連載では、その中の主要な講演を複数回に分けて紹介していきたい。

フォーラムの冒頭、OMDIAは新型コロナウイルス感染症の問題が世界的になる前の2020年初に発表していたディスプレイ市場に関する予測を、8月末時点で大幅に下方修正したことを明らかにした。

コロナ禍にあっても好調を維持している半導体産業とは異なり、ディスプレイ産業はメーカーが工場の操業停止や操業していても稼働率が低下する事態に追い込まれたうえ、ディスプレイの主たる販売先であるスマートフォン(スマホ)やテレビの需要が世界的に減退した結果、ディスプレイの需要も供給も低下したという。ただし、2020年下半期に入ると、需給ともに回復が見えてきていることから2021年以降の市場成長性は期待できるとしている。

ディスプレイの需要と供給の現状

2019年はパネル需要が2%しか伸びなかった一方で、生産能力が9%増となったことから供給過剰に陥った。しかし、2020年のパネル需要は7%増としていたのに対し、パネル生産能力は3%しか伸びないため、今度は供給がタイトになり不足に至るはず、というのが当初の予測であったが、新型コロナの影響により、PCやタブレットからの需要増加はあったものの、テレビ、スマホの需要低迷から、パネルに対する需要、生産能力ともに1%ほどの伸びに留まるとOmdiaでは予測を下方修正した。

テレビパネルの需要については、2019年は供給過剰であったが2020年当初の予測は供給不足としていたが、今回、それを年間を通して需給バランスが変動するとの予測に変更している。その背後には、テレビメーカーが極めて短期レンジで出荷数量を調整していることにあるためだという。

そのため、テレビパネルの価格も年初予測では2019年の前年比3~4割減から、前年比1~2割増としていたが、実際は、第1四半期は上昇、第2四半期は下落、第3四半期は上昇、第4四半期は下落というように目まぐるしい価格変動が続く様相になっているという。ただし、パネルメーカーは第3四半期から黒字化できる見込みであるという。

一方のIT機器向けパネルの需要については、2019年は需給平衡だったのに対し、年初予測では2020年は供給過剰へと予測していたが、新型コロナによる在宅勤務や遠隔授業の増加と長期化により、供給不足へと予測を修正しており、長期的にPCやタブレットの需要回復が続くとみている。

ディスプレイの大口アプリケーションであるスマホについてだが、ホットトピックスである有機EL(OLED)は2019年の4億7500万枚から年初予測では2020年には6億900万枚に増加するとしていたものが、4億6500万枚に下方修正された。5G対応スマホやApple、Huaweiにより有機ELの搭載が促進されている一方で、全体的な需要低迷の影響を受けており、中でもリジッド(折り曲げられない)の有機ELの需要低迷が顕著だとする。

また、同じくディスプレイの大口アプリであるテレビ、中でも8Kテレビ向けディスプレイについては、2019年の出荷数量31万5000枚に対し、年初予測ではオリンピック需要などもあり2020年は53万枚としていたが、これも44万枚へと下方修正している。しかも、8Kテレビは価格が高いわりにコンテンツの拡充がなかなか思うように進まず、成長率も低いことから、パネルメーカーの中には8Kテレビ向けパネル事業から撤退するところも出てきたという。

パネルコンポーネント市場それぞれの状況

パネル全体の市場の次は、それを構成する各コンポーネント市場の状況を見ていきたい。

まずはディスプレイドライバーICだが、2019年はCoFの供給がひっ迫したが、2020年もその状況にあまり大きな変化はない模様だ。ディスプレイドライバーICの利益率は低いため、ファウンドリはもっと利益率の高い5G/IoT/車載ロジック製品の生産を優先しているためだという。

  • Omdia

    キャデラックのEVに搭載されたミニLEDバックライト採用34型オールインワン湾曲液晶ディスプレイとその仕様 (出所:Omdia)

2019年に市場に本格投入され、2020年以降、ゲームや車載向けを中心に成長が期待されているのが「ミニLEDバックライト」である。すでにキャデラックに搭載されるなど、その実力が評価されつつあり、2021年にはタブレットやノートPCにも搭載され、その市場規模を成長させる見込みとなっている。また、さらに小型のLEDを用いた「マイクロLEDディスプレイ」だが、2019年はSamsungのみが手掛ける程度で、2020年にパブリックサイネージへの展開を予定していたが、実際の展開は遅れており、その背景には高価すぎるという課題があるためだという。その価格に見合う新市場を開拓できない限りは市場拡大の余地は少ないとみられる。

Samsung Displayが期待を寄せるのが「量子ドット(Quantum Dot:QD)」であり、2019年の同社のQLED(LED+QDバックライト)の生産能力は550万枚であった。同社は社運をかけて液晶ラインをQLEDラインに転換するなど、2020年には800万枚へ生産能力を向上させる計画を立て、それ自体に変更はないが、実際には年内生産開始予定であったものが2021年にずれ込む可能性が高いという。

またテレビ向け白色有機ELパネルの2019年の生産能力は300万枚(パネルサイズは55型および65型)であったものが、年初予測では2020年には500万枚(55型や65型のほか、44型および77型を含む)としていたが、新型コロナの影響による需要低迷を受け、450万枚に下方修正されている。

  • Omdia

    ディスプレイ産業の注目項目の2019年実績および2020年年初予測ならびに、8月末時点での予測 (Omdiaの発表資料をもとに著者作成)

(次回に続く)