第一工業製薬・坂本隆司社長〈 創業115周年の素材メーカー がV字回復を果たすまで〉

社長交代の2日後に…

 ー 金融マンだった坂本さんが2001年に第一工業製薬へ来られてから24年が経ちました。一貫して第一工業製薬の再生・発展に尽力してきたわけですが、この間の手応えを自身としては、どのように感じていますか。

 坂本 わたしが第一工業製薬に転身して、ほぼほぼ四半世紀が経ちました。本当にあっという間のことでして、もうそんなに時間が経ったのかと、しみじみ思います。

 2001年というのは当社がどん底にあった年で、バブル期の財テクに失敗し、バブル崩壊後に巨額の損失を計上することになって、その後始末に20年近くもかかってしまいました。今はおかげさまで経営も比較的順調ですが、わたしの予想が大きく外れた二つの出来事がありました。

 20世紀を経て、2001年に21世紀へ入ってから、起こりえないと思っていたことが二つも起こってしまったのです。それはコロナと戦争です。

 ー 想定外の事態が発生したと。

 坂本 ええ。一つは新型コロナウイルス感染症です。われわれは医学が進歩し、20世紀までのペストなど、いわゆる疫病のまん延、パンデミックは21世紀には起こらないだろうと考えていました。

 もう一つは、残念な歴史ではありますが、原爆が開発され、日本に二つも落とされてしまった。多くの方が犠牲となり、もう一度原爆を落とすことになれば人類が滅びるということで、大きな戦争は起こらないだろうと言われてきましたし、わたしもそう思っていました。

 ところが、現実にはコロナが発生し、日本だけでなく、世界中がパニックになりました。そして、およそ2年後の2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、21世紀になってから、起こらないであろうと思っていた大戦争が起こってしまったのです。コロナも大変でしたが、わたしにとっては戦争の方が大きな出来事でした。

 ー それはなぜですか。

 坂本 ロシアによるウクライナ侵攻は2022年2月24日でした。わたしは昭和22年生まれなので「2」にこだわりを持っていまして、忘れもしない2日前の2022年2月22日。この日に取締役会を開催し、山路直貴社長への社長交代を発表したのです。

 本当は取締役会を2月23日に開催する予定だったのですが、半年ほど前にわたしが無理を言って予定を変更しまして、社長を交代するなら2並びの日にしようと考えたのです。

 だから、周りの人からは「坂本さん、何か考えているんですか?」と聞かれましたが、わたしは「いやいや」と言って逃げ続けていましたけどね(笑)。

 そこで2月22日に、今の山路新社長を発表し、「山路、頼むぞ」と言っていたら、ウクライナで戦争が起こった。「先行き不透明の時代に……」などと言っていた2日後に戦争が起こったのですから、本当に先のことは分かりません。

続きは本誌で