国立天文台、京都大学(京大)、茨城大学の3者は1月9日、山形県の市民天文家の板垣公一氏が2023年5月19日(世界時間)におおぐま座の方向約2200万光年と比較的近傍にある銀河「M101」にて発見した超新星「SN 2023ixf」のVLBI(超長基線電波干渉法)観測網による電波観測の結果と理論モデルの比較から、親星が爆発する数十年前から質量放出を活発化させていたことを解き明かしたと発表した。

  • 京大 岡山天文台せいめい望遠鏡で撮影されたM101の可視光画像

    京大 岡山天文台せいめい望遠鏡で撮影されたM101の可視光画像。超新星の出現する前(左上)と、出現した2023年5月20日(左上2枚目)以降の画像を比較できる。画像提供:京大 岡山天文台/TriCCSチーム(京都大学・東京大学)(出所:国立天文台 VERA Webサイト)

同成果は、国立天文台 科学研究部の岩田悠平特任研究員(現・国立天文台 水沢VLBI観測所特任助教)、同・冨永望教授、同・守屋尭助教、京大 理学研究科の前田啓一教授、茨城大 基礎自然科学野/理学部の米倉覚則教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

超新星とは、大質量星が進化の最終段階で起こす大爆発により突如明るく輝く天体だ。超新星は可視光での観測が一般的だが、時折電波放射を伴うものも観測される。爆発前の大質量星である親星が周囲にガスを放出し形成された星周物質と、爆発により飛び散った親星の残骸が、衝突することによって電波放射を生じると考えられている。つまり、超新星の電波の明るさの変化を時間と共に観測することで、星周物質の濃淡がわかり、親星がどのように質量を失い爆発に至ったのかという大質量星の進化の歴史をたどることができるという。

おおぐま座の方向に地球から約2200万光年の距離に位置する銀河M101において発見された超新星のSN2023ixfは、いくつかある超新星の種類の中ではII型と呼ばれるものだこのような超新星は10年に1度程度しか発見されない貴重な天体であるため、国内外の多くの研究チームがVLBIを用いた電波による追観測を実施したとする。

VLBIとは、複数の電波望遠鏡の観測データを合成して1つの観測データとして扱う手法だ。今回の観測では、まず国立天文台が岩手県奥州市、鹿児島県薩摩川内市、東京都小笠原村、沖縄県石垣市の4か所で運用する20メートルの電波望遠鏡による「VERA」(VERAは、銀河系の3次元立体地図を作るプロジェクトである)、茨城大の「日立32m電波望遠鏡」と、山口大学の「山口34m電波望遠鏡」が参加した日本VLBI観測網(JVN)、そして韓国VLBI観測網(KVN)が参加し、SN2023ixfの電波観測が実施された。

そしてJVNの観測結果から、爆発の152日後、206日後、270日後の観測で電波放射が検出され、その明るさの測定に成功したという。なおVERAやKVNでは検出できなかったが、電波強度の上限値を求めることができたとのこと。この観測結果を理論モデルに当てはめると、爆発の約30年前から直前にかけて、親星が徐々に激しくガスを放出したことが示唆されたとする。

  • JVN、VERA、KVNによって得られたSN 2023ixfの電波強度変動

    JVN、VERA、KVNによって得られたSN 2023ixfの電波強度変動。下三角は非検出の観測で、上限値が示されている。色により観測周波数帯が表されており、6.9および8.4GHz(赤、青)はJVNによる観測、22および43GHz(黄、緑)はVERAとKVNによる観測で得られたもの。爆発から152日以降のJVNによる観測で、SN 2023ixfの電波放射が検出された。(c)2025- Iwata et al.(出所:国立天文台 VERA Webサイト)

研究チームは今後、VLBI観測により電波放射源が次第に大きくなっていく様子をとらえ、爆発による膨張運動の測定が期待されるという。また、さまざまな超新星について同様の電波観測を行うことで、親星の質量放出の多様性の解明につながるとしている。

今回の観測で使用したVLBIは、東アジアVLBI観測網や、史上初のブラックホールシャドウを撮影したEvent Horizon Telescopeなどの国際的なVLBIと比較すると小規模だが、大規模VLBIでは不向きな迅速かつ高頻度での観測の実施や、各VLBIに特有の観測モードを活用することにより、今回の研究成果へとつながったとする。次世代の超大型電波望遠鏡「Square Kilometre Array」(SKA)では、広視野・高感度の観測により、電波でも超新星のような突発天体を多数発見できることが予想されている。今回の研究成果は、小規模なVLBIがSKA時代における突発天体の時間軸天文学の研究にも有用であることが示されたとしている。