ダイハツ工業(以下、ダイハツ)では、自動車業界が100年に一度の大変革期を迎えたことに対する危機感から、AI活用に取り組んでいる。これは、普段の業務の中で何かAIを活用できるところはないか検討するというボトムアップの活動から始まったものだ。それを主導してきたのが同社のDX推進室 DX戦略グループ長(兼)東京LABO シニアデータサイエンティストである太古無限氏だ。

12月11日~12日に開催された「TECH+フォーラム 製造業DX 2024 Dec. ありたい姿に向かうための次なる一手」に同氏が登壇。仲間づくりから人材育成、事例創出など、AI活用のために現場主導で行ってきた取り組みについて説明した。

データ活用基盤の構築に必要なのは投資判断

講演冒頭で太古氏は、データドリブン経営を目指すには、データを一元管理し、データを利用する人が常に同じプラットフォームを参照できるようにするべきだが、以前のダイハツでそれができていなかったと話した。AIやデータの活用を始めるにはまず基盤の構築が必要となるが、その前に経営陣に投資判断をしてもらわなければならない。基盤の構築には時間や資金が必要になるためだ。そのためには、他社のユースケースなどを参考に費用対効果を示す必要があるが、構築までに長い時間と多大な資金が必要であることを説明すると、経営陣が二の足を踏んでしまうことも少なくない。太古氏は、費用対効果だけでは不要だと判断されてしまうと指摘する。

「損得勘定のPLではなく、長期的な会社の資産とするBSを重視すべきであることを上司に理解してもらうことが重要です」(太古氏)

上司の理解につなげるため、同氏はまず社内の世論の醸成から着手した。人材を育成するところから始め、データ活用の事例をたくさんつくれば経営陣の意思決定につながると考えたのだ。そこで2017年に非公式の少人数ワーキンググループをつくり、通常業務の後に行う機械学習の研修を立ち上げた。それがきっかけとなり、2020年に東京LABOが新設された。これは企業の出島として全社員のAIスキル向上を目指すもので、データサイエンティストを新たに採用できる環境が整ったため、事例創出をスタートすることができたという。

  • ダイハツにおけるAI活用の歩み

ノーコードツール活用を前提とした人材育成

太古氏がグループを立ち上げたときに、データとAIの民主化の実現のために3つのミッションを掲げた。それは社内外の仲間を増やすこと、スキル向上と課題整理をサポートすること、そしてデータ利活用事例を増やしていくことだ。

仲間づくりについて同氏は、やる気のある人と一緒にやることが重要だと考え、AIやRPAなどのテーマでイベントを開催して、興味のありそうな人を探した。その中でも、やる気があり、かつ上司の理解がある人を集めて人材育成に着手したという。ここではノーコードツールを使った短期間でのAI実装に取り組んだ。そこで重視したのは、プログラミングができたりAIをつくれたりすることではなく、AIを使いこなせることである。目的はアウトプットをつくって成果に結び付けることだからだ。そのためデータ加工や機械学習モデルの作成から運用といったAIの作成や活用もノーコードツールで行い、基本的にプログラミングを教えることはしなかったそうだ。

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