人手不足を解決するための方策
新潟・サカタ製作所の事例
─ 人手不足は全産業界で共通の課題になっていますが、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんには25年に向けた生産性向上の方策についてお聞きします。
小室 2024年の大きなテーマは人手不足でしたが、これを解決するためには大きな注意点があります。それは労働時間を柔軟にして労働時間の上限を変えればいいと考えてしまうケースです。これは錯覚であり、根本的な問題は人口構造にあります。労働時間の上限を撤廃しても、無制限に働ける人自体がいなくなっているのです。
経営者も労働者も経済成長させたいという思いは一緒ですから方向を変えることが大事になります。働いている人の労働時間を伸ばすのではなく、育児中の母親や介護中の人材、シニア層といった長時間労働でなければ、まだ働ける人たちの活用です。例えば、パートで働く女性で、正社員を打診されても残業が求められるので受けない人が約290万人います。
─ それだけでも貴重な戦力になりますね。
小室 ええ。65~75歳のシニア層も約1700万人います。こういった方々は残業なしで週3~4回の勤務ならば可能です。もしこの人たちを労働市場に加えられれば、社会保障の支えられる側から支える側に居続けてもらえるということになります。ですから、むしろ社会全体で基本的な労働時間をぐっと短くできるのかどうかで、成長ができるかどうかが左右されてきます。
─ そのためには企業側の評価方法の見直しも必要です。
小室 はい。どうしても日本企業では時間外労働の多い人に高い評価がつく傾向にあります。しかし今後は違ってきます。評価される項目は時間当たり生産性に切り替わっていくでしょう。
26年の国会に向けて大きな議論になってくるのが「労働基準法改革」です。なぜ日本では長時間労働が当たり前なのかという疑問に対して様々な分析がされていますが、根幹にあるのは時間外労働をさせた経営者が得をする労基法があるからです。
日本以外の先進国では時間外割増率が1.5倍なのですが、日本だけが1.25倍。時間外割増率が1.5倍を超えると、今いる人に残業させるより、新しい人を雇用した方が企業にとって得になります。この1.5の数値を均衡割増賃金率と言います。日本もここに変更していく流れが出てくるでしょう。
─ 小室さんがコンサルした中で成果が出た事例とは。
小室 新潟県の製造業でサカタ製作所という社員約150人の会社さんでは、2年間かけて変革し、残業時間を1人1日3分にしたことで従業員の出産数が4.5倍になりました。実は小さい企業ほど経営者がこの観点に気付きさえすれば、改革も早くできると思いますね。
小林いずみ・みずほフィナンシャルグループ 取締役会議長「自分が踏み台になっても、今やるべきことをやる経営者が出てきて欲しい」