日本の「主体性」を出す非常に良い機会
─ 経団連会長の十倉雅和さん、世界で対立・分断が懸念される中、米国ではトランプ氏が再選しました。日本はどう対応すべきだと考えますか。
十倉 まず、当選したトランプ氏に祝意を述べたいと思います。一方、米国を筆頭に「自国第一主義」的傾向が強まっており、これが加速するのではという不安を多くの方が持っています。
同様の傾向がしばらく続くかもしれませんが「歴史は繰り返さないけれども、韻を踏む」と言われるように、振り子のようにトレンドが戻ることもあると思います。
日本は島国で、欧米や中国と比べてホームマーケットが非常に小さく、グローバルを相手にしないと生きていけませんから、自由貿易を第一の価値観として幅広く世界に訴えることが重要です。
─ 今は安全保障と経済が一体化していますね。
十倉 経済安全保障の確保は必要なこととして配慮する必要があります。その上で「法の支配に基づく 自由で開かれた国際秩序・国際経済」を、きちんと日本が訴えていくべきで、日本の「主体性」を出す良い機会だと思います。
米国との同盟関係を第一に念頭に置きながらも、日本の国益も考えていく。また世界は大国だけでは成り立ちませんから、日本は大国以外の国々の状況も踏まえて連携していくことも必要です。
─ 日本再生という観点で政府は「賃金と物価の好循環」を目指してきました。経団連も賃上げを訴えてきましたが、今後の方針は?
十倉 我々も政府の方針と軌を一にしており、「賃金と物価の好循環」を確実なものとし、「成長と分配の好循環」を実現することを目指して取り組んでいます。どちらも「循環」であり、一過性ではないということが重要です。
持続的な賃上げが物価を押し上げ、物価がまた賃金を押し上げる。その好循環をまわしていくためには、やはり生産性向上に取り組まなければなりません。
賃上げは23年が「起点」、24年は「加速」しましたので、今度は「定着」が必要です。物価上昇に負けないよう、ベアを重要な項目と考えていただいて、賃上げの定着を図ることが大事だと思います。
─ AI、DXの時代ですが、この時代の「人」の役割をどう考えますか。
十倉 「ポスト・トゥルース」と言われるように、今は感情・情緒への訴求が影響力を持つ世の中になっています。SNSにAIも加わる中、真実なのかわからないような情報が広がれば、人々を混乱させます。
やはり一人ひとりが知性・理性をしっかり持って情報を見極め、判断することが重要だと思います。