『素材は技術の蓄積がないと、 革新的なものは生まれない』
「世の中の動きが短期志向になり、AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)で何でもできるという風潮があるが、現実はそうはいかない」
製造業の中でも、例えば組み立て産業が、世界中の部品の中からよいものを選び、社会のニーズに合わせて組み合わせることで迅速に対応するのに対し、素材は新たなものを開発するのには多くの時間が必要。
例えば、今や東レの主力商品となっている炭素繊維。1960年代初めから素材開発をし、最初に商品化したのが1971年のこと。そこから、主要な構造材料として、東レの炭素繊維が全面的に採用された飛行機が飛んだのが2011年。実に50年の歳月が流れている。飛行機用として花開くまでの間は、ゴルフシャフトや釣り竿、自転車などスポーツ用途の他、様々な産業用途の需要拡大に努めてきた。
また、祖業の繊維にしても、すでに技術開発は行き着くところまで行き着いたと見られていたが、東レは「ナノデザイン」という技術を開発。世界で東レだけが持つ製造技術で、ナノレベルで繊維の断面を自在に設計し、複数のポリマーを組み合わせて新しい機能を加えることも可能。
「東レは創業以来90年かけて、ナイロンなど様々な繊維を開発してきたが、まだ新しい技術があることを証明できた。繊維は衰退産業と言われたが、まだ新しく変わることができているのは素材の魅力」と日覺氏。
今、AI、DXということが盛んに言われるが、それも素材の力あってのこと。今後も技術の「極限追求」で新素材を追求し続ける考えだ。