宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月25日、イプシロンSロケット第2段モーターの再地上燃焼試験で発生した爆発事故について、原因調査の最新状況を説明した。まだ本格的な原因調査に着手したばかりという段階であり、今回新たに判明した事実はあまりないが、各種データの詳細評価のあと、次回は2025年2月に進捗を報告する予定だという。
爆発はモーター後方側から発生
イプシロンSロケット第2段モーターの「E-21」は、2023年7月に能代ロケット実験場で実施した地上燃焼試験に続き、2024年11月26日に種子島宇宙センターで実施した再地上燃焼試験でも爆発が発生。JAXAは同日中に原因調査チームを立ち上げ、岡田匡史理事/宇宙輸送技術部門長をチーム長として、原因調査を進めてきた。
前回の記者説明会は、12月5日に開催。今回は、それからの20日間で進展があったことについて、井元隆行・イプシロンロケットプロジェクトマネージャより報告があった。前回までの内容については、過去記事を参照して欲しい。
まず、今回追加で公開されたのは、爆発時の前方からの画像。爆発前の画像では、飛散物や燃焼ガスのリークも確認できるが、ここから新たに分かることはあまりない。
そして、加速度センサーと歪センサーのデータを調べ、変動の時間的な順番を特定。燃焼ガスのリークや爆発は、モーターの後方側で発生したと結論づけた。ただし、これはすでにその可能性が高いとみられていたことなので、特に驚きはない。
また温度データは、ガスリークの発生前までに、後方では1〜5度程度、前方では0〜2度程度上昇していたという。これはモーター外表面の温度であるため、内部の温度がどうなっていたかは分からないのだが、この温度上昇の数値については、前回の能代のときと大きくは変わらないとのこと。
飛散した破片の回収状況であるが、地上の飛散物は回収が完了。海中は回収作業を継続中で、ノズルの下側が見つかったという。特に重い金属部材などは遠くに飛んでいるとみられ、井元プロマネは「できるだけ拾いたい」とした。
なお前回の記者説明会では、イプシロンSロケットの当初の目標であった2024年度中の打ち上げは「現実的に不可能」と岡田氏より説明があったが、その後、JAXAの理事会議で了承され、組織としての正式決定となった。ただ、2025年度中にできるかどうかは、まだ判断できる段階ではない。
FTAは3つのトップ事象で開始
前回の記者説明会ではまだ、燃焼試験で発生した事象を把握している途中だったが、今回、試験データ・回収品や、設計・製造・検査データに基づく原因調査に着手。原因調査には、FTA(故障の木解析)と呼ばれる手法を採用するのだが、以下の3つをトップ事象として設定し、そこから枝分かれするあらゆる可能性を調べ上げていく。
- (1)点火後約17秒から燃焼圧力が予測より上昇
- (2)約48.9秒で燃焼圧力が下降(ガスリーク)
- (3)約49.3秒で燃焼圧力が急激に下降(爆発)
注目したいのは、前回(能代)のFTAとの違いだ。能代で爆発した際には、「爆発」をトップ事象として、その下に「モーターケース破壊」と「ノズル破壊・脱落」を置き、最終的には、イグブースタの溶融によってインシュレーション(断熱材)が損傷したというシナリオにたどり着いた。
能代では、上記(2)のガスリークは起きていなかったものの、(1)の燃焼圧力の上昇と、(3)の爆発は同様に発生していた。そして原因調査では、その2つの事象を合わせた形でFTAを展開し、結論を出した。しかし今回は、3つの事象をそれぞれ分けた。
これについて、井元プロマネは「前回は、爆発というトップ事象に対して、(1)を強く関連づけてやっていたが、今回はそこをゼロから考える」と説明。今回の3つのトップ事象には関係があるのか、原因と結果になっているのか、それとも関係のない別の事象なのか、明らかにしていくという。
能代では、「燃焼圧力の上昇」という事実と、「イグブースタの溶融」という事実があって、この2つを結びつけ、原因を特定した。たしかに、この2つに因果関係があるのなら、爆発現象を説明できるだろう。しかしそれは、必ずしも、考えられる原因がこれしかない、ということを意味しない。この2つは本来無関係で、別に原因があった可能性もある。
実際、種子島での再試験では、イグブースタの溶融はなかったことが確認されているのに、ほぼ同様の燃焼圧力の上昇が起きた。現時点では、燃焼圧力が予測より上がったから爆発したのか、それとも燃焼圧力が予測通りでも爆発は起きたのか、それすら分からない。3つの事象を分けて調べるのは、そのためだ。
上記(1)の燃焼圧力の上昇については、「燃焼面積が増加」と「燃焼進行が速い」という2つの要因が考えられ、それぞれ、設計不良、製造不良、組立不良を調べる。(3)の爆発については、壊れた場所の特定を進めるとともに、リークした燃焼ガスが原因か、それ以外が原因なのかを調べる。