<シリーズ連載>日本の課題解決に向けて

いかに戦略的に動くか?

「経営の原点に立ち返って、自分たちの使命とは何かを考え、仕事の付加価値を高めていきたい」─。

 各領域の経営トップたちはこのように意気込む。  

 2025年は巳年で〝脱皮の年〟。従来までの古い皮や殻を脱ぎ捨てて新しい姿に生まれ変わるという成長を遂げる年に当たる。しかし日本を取り巻く環境は依然として厳しさが増す。

 GDP(国内総生産)では、米国、中国、ドイツに次いで世界第4位となり、1人当たりGDPも世界第38位。また、各社が投資しているAI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)でも日本は苦しい環境に立たされている。

 GAFAM(グーグル・アマゾン・フェイスブック=現メタ・アップル・マイクロソフト)に代表される巨大テック企業などに利用料を支払う「デジタル赤字」の拡大が止まらないからだ。

 24年1―10月の累計額は5・4兆円超と既に23年実績を上回った。暦年では6兆円超と過去最大規模になる見通しだ。

 さらに25年の関心事の1つが米国のトランプ次期大統領の就任。米国第一主義を掲げ、他国からの輸入品に対する関税の引き上げを打ち出す。

 各国による関税引き上げ合戦に突入すれば、世界全体の貿易は縮小し、原材料の輸入を海外に依存する日本企業にとってはコスト負担増につながり、ひいては商品価格の値上げにならざるを得ない。国産品に代用するにしてもインフレが進むことになるだろう。

 一方で国内に目を向ければ財政再建は待ったなしの状況だ。

 現在、歳出総額の過半が社会保障関係費と公債費で占められており、今後も高齢化に伴って社会保障関係費が増加し、公債費も金利上昇リスクの顕在化に伴って増加ペースが加速する恐れも懸念されている。

 複雑な要因が複雑に絡み合う中でも〝解〟を求めていかなくてはならない。今回、『日本の課題解決に向かって』というシリーズ連載を開始したのも、各領域から見た業界の課題が国家的な課題にもつながっており、それを解決することが日本再生に向けた第一歩になるという視点を持ったからである。

国民に求められる〝自助〟

 第1回は製薬業界でアステラス製薬会長の安川健司氏が登場。

 コロナ禍において日本からワクチンや治療薬が生まれず、その事実が白日の下にさらされ、「ワクチン敗戦」と揶揄される事態となった。

 岸田文雄前政権は経済や国民生活に欠かせない「重要物資」に医薬品を指定した。ただ、製薬業界には独特な規制などの壁がある。

 安川氏は「時代が大きく変わった中で1961年にスタートした国民皆保険制度のままでいいのか」(同)と訴える。薬価の問題もその1つ。今は毎年のように薬価が引き下げられている。

 その結果、海外で開発された新薬の承認が日本で遅れる「ドラッグ・ラグ」や海外の新薬が日本に入ってこない「ドラッグ・ロス」が深刻化している。

 その背景には「国民健康保険法の理念の下、稀に起こる大きなリスク(大病)を国民で助けるというハードルがどんどん下げられ、頻繁に起こる小さなリスク(病気)も国民で助けるようになった」(同)という経緯があるからだ。

 また、技術革新が進み、有機合成化学で作る低分子医薬品から生物由来のバイオ医薬品が新薬開発の中心となる中、化学大手が製薬子会社との関係見直しに動き出している。

 加えて、日本の製薬会社の間でも海外に研究開発拠点を移管させる動きが徐々に出てきてもいる。

 安川氏は「日本のライフサイエンス関連の事業を育成できれば外貨を稼ぐことができる」と強調。そのためにも自らの健康は自らが責任を持つという〝自助〟の思想を国民一人ひとりが持つことから始めなければならない。