企業のジョブ型対応で 大学院を重視した教育を
ー 世界が分断・分裂しているような状況の中で、改めて、大学の現状をどのように捉えていますか。
伊藤 国際的には、特に米国を中心に、一種の特権階級的な信頼というものが揺らぐような状況になっています。特に世界のトップ大学になると、入学するためには教育熱心で、財政的にも余裕のある家庭の子が圧倒的に有利です。
もう一つは、日本で言いますと、わたしは偏差値と言いたくないのですが、偏差値50くらいの大学の教育が一番大切だということです。
東京大学総長・藤井輝夫「地球全体で知を共有し、共に知を生み出す。地球規模の課題を解決していきたい」
ー それはどういう意味ですか。
伊藤 要するに、偏差値50クラスというのは、一番人数が多いわけですよ。この層の人たちが日本の一般的な社会を支えているわけで、この層がハッピーで、やりがいや生きがいを持って社会を良くしていくような教育、あるいは体制を、日本全体でつくっていかなければならないと思っています。意外と皆さん、このことを理解していなくて、特に少子化問題を考える上では大切なことだと考えています。
日本では偏差値信仰が強いので、自分はあの大学に行ったという、ある種の優越感を持ったり、また、自分はこの大学にしか行けなかったという劣等感を持ったりしてしまう。世間もあの人はあの大学、この人はこの大学というように、勝手にレッテルを貼ったり、判断することもありますよね。しかも、それが一生付きまとうわけです。これをなくさなければならない。
現在の偏差値40~60ぐらいの層がいかにハッピーに、良い意味で、張り切って、生きがいを持って社会の貢献に寄与できるか。偏差値から解き放たれる入試改革も含めて、そういう大学体制を日本全体でつくっていく必要がある。それがこの3年半、日本の大学全体を見ていて思ったことですね。
ー その意味では、一番人数の多い層に使命感やミッションを植え付けていくことが大事だということにもなりますね。
伊藤 はい。ただ、一方で、今はものすごいスピードで少子化が進んでいます。そのため、大企業は就職でいい人材を獲得しようと人の取り合いを速めていて、中小企業にはなかなか人が回ってこない。回ってこないから、1年を通じて一生懸命採用をすると。
企業が少しでもいい人材を採用したいという気持ちは分かりますが、結局、人の取り合いを学生たちの在学中からし続けることが、日本にとって得なのかということですよね。これは考えないといけない。
ー 企業は個々に必死で採用をするわけですが、それが社会全体として考えた時にいいことなのかどうかと。
伊藤 ええ。少し前にわたしがある国に行った時に、誰もが早く先に行きたくて3車線の道に突っ込んで、4車線になってしまい、その結果、皆が詰まって前に進めない状況になっていたんですよ。そういう状況を日本がつくっていないかということに、わたしは危機感を覚えています。