国土交通省 国土地理院は12月24日、同院が管理する電子基準点、三角点、水準点などの基準点の標高成果について、2025年4月1日に衛星測位を基盤とする最新の値「測地成果2024」に改定することに伴い、その準備の一環として、富士山に設置している電子基準点と三角点の高低差を水準測量で行う測量作業を2024年7月25日に実施し、衛星測位を基盤とする電子基準点の最新の標高成果を基に三角点の新しい標高成果を算出した結果、現在の3775.51mよりも5cm高い「3775.56m」となったことを発表した(なお、今回の新しい標高成果は、まだ測量には使用できない)。
国土地理院が管理する電子基準点、三角点、水準点などの標高成果には、長年の地殻変動によって現況とのズレが生じているという。また、標高体系の基盤である水準測量は距離に応じて誤差が累積する特徴があり、日本水準原点から離れるほど標高成果の誤差が大きくなるという課題がある。測地成果2024への改定では、衛星測位と陸海シームレスの新たなジオイド・モデル「ジオイド2024 日本とその周辺」が使用され、そうした地殻変動による標高成果のズレの解消や、標高成果の誤差の問題などを解消することが目的とされている。今回の改定に伴う全国の標高成果の改定量(試算)の中で最大となるのが、北海道道東で、-40cm程度が見込まれているといい、また沖縄地方も最大-5cm程度が見込まれている(なおこれらの値は試算値のため、実際の改定量とは異なるとのこと)。
現在の標高体系は、日本水準原点からの水準測量により構築された一等水準路線の標高が基盤とされており、電子基準点や水準点などの標高成果はこれに整合している。衛星測位を基盤とする標高体系では、全国の電子基準点の衛星測位で得られる「楕円体高」とジオイド・モデルで得られる「ジオイド高」から求められる標高が基盤とされ、水準点などは近傍の電子基準点付属標からの水準測量などにより標高成果が決定されるようになる。
より詳しく見ると、日本の衛星測位システムとして知られる準天頂衛星システム「みちびき」や、米国のGPSなどを使用した衛星測位の高さの基準となるのが「楕円体面」である。楕円体高とは、この楕円体面から最も高い地点までの高さであるが、楕円体面はジオイド(標高の基準)である東京湾平均海面よりも低いため、楕円体面からジオイドまでの高さであるジオイド高を差し引くことで、標高が算出されるのである。
そして国内の任意の地点において、ジオイド高を与えるモデルがジオイド・モデルの最新版である「ジオイド2024 日本とその周辺」だ(前バージョンは「日本のジオイド2011(Ver.2.2)」)。同モデルは、航空重力データ・地上重力データ・船上重力データ・海底重力データ・衛星重力データなどを用いて構築されたもので、東京湾平均海面と一致するように構築されている。なお「ジオイド2024 日本とその周辺」は、2025年4月1日以降、基盤地図情報ダウンロードサービスからダウンロード可能で、任意の地点のジオイド高を求めたい場合に対しては、同日「ジオイド高計算サービス」がスタートする予定である。
衛星測位を基盤とする標高の仕組み(標高体系)に移行することで、現在の標高成果の課題解消、迅速な標高成果の提供、測量や公共工事などの効率化・生産性向上(同じく2025年4月1日から「GNSS標高測量」が公共工事などに導入の予定)に加え、新たなサービスの創出も期待できるという。たとえば、大地震直後の復旧・復興工事において迅速に標高成果を改定することができるようになるとする。
そのほか、従来の一等水準路線を基盤とした標高体系では、全国の測量を終えるのに10年以上を要していたため、標高成果の時点(元期)を定めることができないことも課題だった。それに対し、衛星測位を基盤とする標高体系では、衛星測位とジオイド・モデルから電子基準点の標高を決定することから、標高成果の時点(元期)を定めることができるため、今回の改定では「令和6年(2024年)6月1日」と定める予定とした。これにより、元期以降の標高の時間変化を電子基準点によって監視が可能となるという。たとえば、全国の電子基準点の標高成果をいつでも矛盾なく利用できるようになり、地殻変動の影響がない標高を決定できるようになるとした。
なお、富士山の最高地点は、今回測量が行われた三角点より高いところにあるが、標高は「3776m」のままで変更はないとのこと。また、二等三角点「富士山」以外の基準点の標高成果は、2025年4月1日に公開が予定されている。