みなさんこんにちは!アウトリーチオフィサーとして、地球深部探査船「ちきゅう」に11月16日から12月2日まで乗船していました、科学コミュニケーターの三浦です。

前回のブログ(SC三浦の航海日誌#2)では、「ちきゅう」に乗船するまでの様子をご紹介しました。今回は、研究者や掘削作業員、航海士など150人以上が生活する大きな船「ちきゅう」での“暮らし”に注目してご紹介します!

天気が穏やかな日は、船首方面にあるヘリデッキ(ヘリコプターが離着陸する場所)に行くことができます。座っているのが私。パノラマの海が目の前に広がります。朝日や夕日をここから眺める時間が本当に大好きでした。
撮影:Yu-Chun Chang(JAMSTEC、日本)

「船酔いはだいじょうぶ?」「船酔いしなかった?」

 「ちきゅう」に乗船する前後、一番多かった質問がこの質問でした。答えは……「船酔いした!」です。ただこれは、海の環境と人の体質によって全然違います。

「ちきゅう」は全長120m(未来館の1.7倍の大きさ!)もある大きな船なので、基本的にはあまり揺れません。ただ、波が高い日はそうもいきません。7メートルの波の予報がでた日は、まっすぐ歩くのも難しいときもありました。そういう日はやはり船酔いしてしまいました。

波がある日の海の様子。白波が立っていることがわかります。天気が変わりやすいため、何度も海上にかかる大きな虹を見ることができました! 虹の“始まり”の部分が透けていて、奥に海が見える様子は何とも幻想的ですね。

 微古生物学を研究されている萩野穣さん(山形大学)は、研究のために船内で顕微鏡を使います。船は揺れているので、顕微鏡のピントもずれ続けるそう。「乗船してから酔い止め薬を飲まなかった日は3日くらいしかないです」と少し困った表情でおっしゃっていました。クルーや他の研究者のなかにも「得意じゃないですよ~!」とおっしゃる方もいて、「船が得意な人ばかりが乗船しているわけじゃないんだ!」と驚きました!

研究中の萩野さん。1日何時間も顕微鏡と戦っていらっしゃるそうです。

乗船するとそこは…外国でした!

私が船に滞在していた時は、160人ほどの人が乗船していました(「ちきゅう」には最大200人が乗ることができます)。

船上の人たちの業種もさまざまです。「ちきゅう」が採取したコアを研究する研究者、コアの処理を専門とするラボテクニシャン、ドリルフロアで働く掘削作業員、船の運航を担う方々、おいしいご飯を作ってくれる司厨員、洗濯や掃除をするケータリングクルー。日本だけではなく、アメリカやフランス、中国、オーストラリア、フィリピンなど、世界各地から乗船しています。ですので、船内での公用語は「英語」! 船内の掲示やアナウンスももちろんすべて英語(たまに日本語)。「ちきゅう」は日本の船ですが、なんだか外国に来たような気分です。

廊下にある掲示。船の世界では、右をSTARBOARD、左をPORTといいます。この掲示は避難をするとき、どちらの方向に向かえばいいか判断するためのものです。

私は英語を使って生活したことや、海外で仕事をしたこともありません。正直、英語でのコミュニケーションは不安でしかありませんでしたが、何とかなりました……いいえ、「何とかした」という表現の方が正しいでしょう(笑)。

複数言語を話すことができる人も多い一方で、日本語とつたない英語で何とか会話をしている私。とても情けなく悔しい気持ちになりました。ご飯を食べているとき、共同首席研究者あるパトリックさん(アメリカ出身)に「つたない英語ですみません……」と伝えると、「そんなことないよ、僕は英語が母国語でラッキーだったよ~!」とおおらかに答えてくれました。乗船しているみなさん、とっても素敵な人ばかりです。

アウトリーチオフィサーを務めるアメリカ人のNur Schubaさんが、パトリックさんを紹介する漫画を描いてくれました!
パトリックさんはいつも、目をらんらんと輝かせながら研究の話をしてくださいます。

「ちきゅう」での働き方

 「ちきゅう」の業務は基本12時間交代制です。0時~12時まで働く昼シフトの人と、12時~24時まで働く夜シフトの2交代制。私を含めて交代がない業種の場合は、6時~18時までという勤務形態です。「ちきゅう」は船も人も、24時間動いているんです。

昼シフトの人と、夜シフトの人の1日を見てみましょう。

昼シフトのRon Hackneyさんの1日。
夜シフトの奥田花也さんの1日。

 研究者チームは11時から毎日ミーティングがあります。そこで、昼夜それぞれのシフト(or チーム)の人が情報交換や引継ぎをして、片方のチームメンバーは作業に、もう片方のメンバーは自室に戻っていきます。お昼ごろは「Good Morning」と「Good Night」が同時に聞こえる、ちょっと面白い時間帯でした。

とってもおいしい「ちきゅう」食堂

 「ちきゅう」の中には食堂があって、皆そこでご飯を食べます。24時間誰かしら働いているので、食堂が開く時間は1日に4回。5時~7時、11時~13時、17時~19時、23時~25時のそれぞれ2時間制です。

食堂入り口には3つ洗面台があり、食べる前に手を40秒洗わなければいけません。壁にタイマーが設置してあり、40秒経過してピピっと鳴るまでしっかりと手を洗います。これは体調を崩さないためには非常に大切です!

「ちきゅう」の食事はバイキング形式! 自分に合わせた食事をとることができるのですね。体力を使う仕事の人はたくさん食べることができますし、ベジタリアン向けのメニューもあります。さまざまな国籍、宗教、業種の人が一緒に働いている船の中で、誰もが食事を楽しめるように工夫されています。

コの字型のカウンターにたくさんの料理が並んでいます。果物やケーキ、アイスを食べられることも! ついつい食べ過ぎてしまいます(笑)

 気になるお味ですが、とってもおいしいです! しかも毎食メニューが変わります。いつもすべてのメニューを食べるぞと意気込むものの、種類が多く、泣く泣く選んでいます(嬉しい悲鳴)。乗船する前のインタビューで、クルーの皆さんの一番の楽しみは「食事」と聞いていましたが、これは納得です。私もご飯の時間が日々の楽しみになりました。

食材は定期的にサプライボート(支給船)が届けてきてくれます。サプライボートが来た日はバナナやお刺身(レア)など、日持ちがしないメニューを食べられます! みんなサプライボートが大好きです。

ゆりかごで寝ている気分♪

 仕事が終わると、それぞれ気分転換などをして部屋に帰ります。

部屋は2人1組で使用します。中には二段ベッドと机と椅子が1セット、ロッカー2つと、シャワー・トイレがあります。部屋ではネットがつながらないので、特にすることもなくシャワーを浴びるとさっさと眠りにつくことが多かったです(強制デジタルデトックスになりました)。

部屋の入口(左)と室内の様子(右)。扉に汚れた服をかけておくと、スタッフが綺麗に洗濯して畳んでくれます。写真右上にある棚の扉から顔を出しているのは、Saraのユニコーンのぬいぐるみです!
写真提供:Sara Satolli(University of Chieti-Pescara、イタリア)

 船の揺れが強い夜でも、ベッドに横になるとあら不思議、意外に気持ち悪さは感じません。小刻みではなくゆったりと揺れているので、まるでゆりかごに横になっているかのようです。ぐっすりと眠りにつくことができました。

 

 いかがだったでしょうか? 今回は“暮らし”に注目してご紹介しました。「ちきゅう」での生活、イメージできましたか? 地上で暮らしているときとは異なる点もたくさんあり、日本の海上にいるのに異国に来たような気分でした。

船上では、限られた空間に長期間、同じメンバーで滞在します。だからこそ、乗船者のみなさんは誰もが過ごしやすいように、互いに思いやりながら生活をされていました。ともに過ごしたクルーのみなさんに、心から感謝を伝えたいです!

 

 



Author
執筆: 三浦 菜摘(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、展示解説や発信活動を実施。地球科学の最前線を紹介する企画展(Mirai can NOW第7弾「地震のほしをさぐる」)等を担当。

【プロフィル】
自然に囲まれた幼少期を過ごし、植物や生き物が大好きに。大学では植物の化石を研究していました。以前は宮城県の放送局でアナウンサーとして、科学トピックの特集などを担当していました。
科学を多くの人と楽しめる場をつくりたいと思い、未来館へ。

【分野・キーワード】
古植物、植物生態学