先進各国の与党が国政選挙で苦戦している。
英国では政権交代。フランスではマクロン大統領率いる与党が議会選挙で敗北。米大統領選では、トランプ共和党が圧勝し、上下両院も制した。
表面的理由は、インフレで国民生活が困窮していることだが、底流にはアンチエスタブリッシュメント層の拡大がある。高い教育を受けたエリート層が推進するグローバリゼーションや移民政策で低中所得層が苦境に陥ったというナラティブが広く受け入れられ、トランプ氏は低中所得層を取り込んだ。ハリス氏は、グローバリゼーションを推進したクリントン、オバマ、バイデンの系譜とみなされた。
共和党はトランピズム政党に変貌し、フランスではRN、ドイツではAfDなどポピュリズム政党が躍進している。
日本も衆議院選挙で、自公が過半数割れしただけでなく、ポピュリズム政党が都市部を中心に躍進した。政治の液状化の兆候だろうか。
衆議院選挙の論点は、実質賃金の引き上げだった。多くの経済人は、生産性を上げなければ、実質賃金を上げることはできないという。しかし、前回の当コラムで論じた通り、日本の実質賃金が上がらないのは、生産性の問題ではない。
過去四半世紀、日本の時間当たり生産性は3割上昇したが、時間当たり実質賃金は横ばいだ。この間、米国では生産性が5割上昇し、実質賃金は3割弱上がった。独仏の生産性の改善は、日本を下回るが、実質賃金はフランスが米国に肉薄し、ドイツは米仏ほどではないが、15%程度上がり、日本より遥かに堅調だ。
実質賃金が横這いと指摘すると、それは、生産性の低い中小企業の話だと大企業経営者は誤認する。中小企業が自社のような高生産性企業に生まれ変わるには、一国で成長戦略を推進する必要があると主張する大企業経営者も多い。現実には、多くの大企業で、現在の部長や課長の実質賃金は、四半世紀前の同じ役職者に比べ低下しているのが実態だ。
それでも長期雇用制の枠内にいる人は、右型上がりの賃金カーブの下、毎年2%弱の定期昇給で、過去四半世紀、属人ベースで実質賃金は1.7倍に増えている。しかし、長期雇用制の枠外にいる人は、人手不足で実質賃金が上がったといっても、元々、賃金水準が低く、経験を積んでも、賃金が上がるわけではない。
それでも何とか生活できたのは、過去四半世紀はゼロインフレだったからだが、過去3年の円安インフレで、生活が一気に困窮した。これが、衆院選挙で与党が過半割れし、ポピュリズム政党が台頭し始めた真因ではないか。
有権者に響いたのは、手取りを増やすとした国民民主だった。自公政権は国民民主の政策を受け入れ始めている。ただ、人手不足が深刻化し、完全雇用に近い中で、大規模財政を続けると、インフレが加速する。困窮者に的を絞った政策が大切だろう。