生体認証によるログインを実現するパスキーの開発・普及を行う業界団体FIDOアライアンスは、2024年の状況や新サービスの報告を行う報道関係者向けの説明会を開催した。世界では150億を超えるアカウントでパスキーが利用可能になっており、さらなる普及を進めるために、パスキー導入を計画する事業者などを支援するサイトの日本語版も公開した。
拡大する「パスキー」とはなにか
パスキーは、Webサービスのログインなどユーザー認証において、複数デバイスで共通して生体認証を使うための標準仕様。FIDOアライアンスとWeb標準規格を策定するW3Cが共同して開発しており、パスワードを使わないことで利便性が向上するとともに、特にフィッシング詐欺に対して強いという点が特徴とされている。
FIDOアライアンスは、生体認証を使ったユーザー認証にフォーカスして技術開発。2015年にはNTTドコモが参画し、少しずつ利用が増えてきた。2022年には複数のデバイス間で認証情報を同期できるパスキーが開発され、利用がさらに拡大した。
特にGoogle、Apple、Microsoftというプラットフォーマーが対応を表明したことで普及が進んだ。FIDOアライアンスのエグゼクティブディレクターでCEOのアンドリュー・シキア氏は、「パスキーは事実上、あらゆるコンピューター、デバイス、OS、ブラウザなどで対応されている」とアピールする。
たとえばAmazonは2023年10月から対応。すでに1億7,500万アカウントがパスキーを登録し、ログイン成功率が改善しているという。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)ではパスキーの採用によってサインインに要する時間が24%削減。サポートコストの低減などを実現した。
Googleは8億を超えるアカウントがパスキーを利用しており、サインイン成功率は30%向上、サインイン時間は平均20%改善で、63%の利用者が満足しているという。日本では、KDDIで1,300万人、LINEヤフーで2,700万人、メルカリで700万人など、利用者も拡大。ドコモもdアカウント認証のパスキー利用率が昨年の37%から50%に拡大して、認証の半数がパスキーとなった。安全性に関しても、ドコモのオンラインショップでは2年以上身に覚えのない購入が発生していないという。
iPhoneで作ったパスキーをAndroidに。共有の新仕様は「'25年半ばにも正式版にしたい」
パスキーは、認証するための情報(クレデンシャル)をGoogle、Apple、Microsoftというプラットフォーマーのサービスに保存するため、「大手IT企業にユーザーがロックインされる」という懸念もあったとシキア氏は明かす。
しかし、仕様の改善も含めて、2024年には1PasswordやBitwardenなどのパスワード管理ツールでパスキーが保管できるようになった。さらに10月にはドラフト版ながらクレデンシャルを交換するための「クレデンシャル交換プロトコル(CXP)」、「クレデンシャル交換フォーマット(CXF)」の仕様を公開。これによってパスキーを別のプラットフォームに移行できるようになる。たとえばiPhoneで作成したパスキーをAndroidに移行できるようになる。