早稲田大学(早大)は12月18日、銀河団を占めている成長を終えた巨大楕円銀河が、どのようにして星の形成をやめたのかを調べるため、110億光年の彼方にある銀河団をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて観測した結果、超大質量ブラックホール(SMBH)の活動と共に銀河が一斉に成長を終える様子を捉えることに成功したと共同で発表した。
同成果は、早大 高等研究所の嶋川里澄准教授、国立天文台の小山佑世准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society : Letters」に掲載された。
宇宙には数多くの銀河が存在するが、それらの多くは群れて集まっている。我々の天の川銀河の場合は、隣のアンドロメダ銀河などと共に局所銀河群を構成しており、半径1メガパーセク(326万光年)以内に、50~60個ほどの矮小銀河があるとされる。さらに宇宙には、より広いスケールにおいて、より多くの銀河が集まった銀河団も存在する。我々から最も近い銀河団が、史上初のブラックホール直接観測で知られる、太陽質量の約65億倍という宇宙屈指のサイズを誇るSMBHが中心に位置する巨大楕円銀河M87を中心とした、約5500万光年ほどの距離にある「おとめ座銀河団」だ(我々の局所銀河群は、おとめ座銀河団を中心とする「おとめ座超銀河団(局所超銀河団)」に属しており、その外れに位置している)。銀河は宇宙に等間隔で満遍なく存在しているわけではなく、このように偏って存在しており、銀河や銀河団などが集まって網目構造を形作っていることから、宇宙の大規模構造と呼ばれている。
M87のような銀河団を支配する巨大楕円銀河は、天の川銀河やアンドロメダ銀河などのような渦巻き構造がなく、星も形成しておらず、古い星の集団で構成されている。しかしこれは不思議なことで、通常なら銀河からSMBHの活動で吹き飛ばされたにしろ、元々銀河間空間に存在していたにしろ、星の材料となる水素などのガスが絶えず重力によって銀河に集まってくるという。特に、大型で強い重力を有する巨大楕円銀河にはガスが集中しやすいはずで、「銀河が星を形成しない」という状況はそう簡単に起こらないはずでであるため、巨大楕円銀河がどのように形成されたのかは、今なお議論が続いている状況だ。
現在指示されているものには、「銀河中心のSMBHからの持続的なフィードバック活動」という仮説がある。SMBHの持続的な活動によって、ガスの供給が途絶えたという内容で、例えるなら密室で酸素の供給が絶たれて段々と窒息しつつあるような状態だという。そこで研究チームは今回、SMBHの活動が銀河団にもたらす影響を検証するため、JWSTに搭載されている近赤外カメラを用いて、現在の銀河団の祖先にあたる、約110億光年彼方の遠方宇宙に存在する銀河団の観測を行ったとする。
今回観測対象とされた銀河団には、巨大楕円銀河の前身である巨大銀河が多く存在していることが、研究チームによるこれまでの調査から明らかにされていた。近赤外線は、ヒトの目が捉えられる可視光線よりも波長が長いため、星間ダストの影響をあまり受けずに星形成やSMBHの活動を観測することが可能だ。
そして、近赤外カメラの「狭帯域フィルター」(特定の波長で強く放射される光(輝線)を効率的に捉えられる)を通した観測により、星形成やSMBHの活動度を示す水素の再結合線を高解像度で得ることに成功したとする。その詳細なデータ解析が実施されたところ、活動的なSMBHがいる銀河で、星形成に起因する光が出ていないことが判明。これは、SMBHが活動する銀河において、星形成が著しく妨げられていることを意味するという。銀河団を占める巨大楕円銀河の形成要因が、過去のSMBH活動によるものだったとする理論予測を強く裏付ける結果だったとした。
銀河とSMBHは、サイズ的にはヒトと細胞くらいの差があるが、互いに干渉し合いながら成長(共進化)すると考えられている。共進化の解明は2020年代における銀河天文学の重要課題に位置づけられており、今回の研究が捉えた活動的なSMBHによる星形成の抑制は、まさにこの共進化プロセスを裏付ける貴重な観測的証拠といえるだろうとする。
研究チームによると、最新のシミュレーション予測とより直接的な比較検証を行うには、SMBHから周囲にどれほどのエネルギーが放出されているのか、またブラックホールの質量がどれほどなのかを知る必要があるという。これを実現するのはかなり困難とされるが、JWSTにも備わる「面分光」と呼ばれる立体的に分光を行う観測技術を活用すれば、実現できる可能性があるとしている。