国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ新型補給機「HTV-X」の初号機を、三菱電機が報道陣に公開した。2009~20年に9機が活躍した「こうのとり(HTV)」の後継機で、機体構成の合理化を進め、能力を向上させた。大型ロケット「H3」で来年度にも打ち上げる。将来的に、月上空の基地に物資を運ぶことも視野に開発が進んだ。
機体は同社の神奈川県鎌倉市内の製造拠点で、10日に公開された。HTV-Xの全体は全長8メートル、太陽電池パネルを開いた幅が18メートル。このうち同社は飛行や通信の機能を持つ部分と、ISS船外で使う物資を搭載する部分とを合わせた「サービスモジュール」の開発を担当した。残る、ISS船内で使う物資を搭載する「与圧モジュール」は三菱重工業が開発しており、初号機のものは既に、打ち上げを行う種子島宇宙センター(鹿児島県)に輸送済みという。
こうのとりは円筒状の機体の側面に太陽電池パネルを貼り付けた構造だった。これに対しHTV-Xは、太陽電池パネルを人工衛星のように左右に広げた形態が特徴だ。電気系や推進系を集約したほか、ISS船外で使う物資を搭載する円筒内の「非与圧部」を廃止して機体の外側に“むき出し”で搭載する形に改めるなど、大幅な合理化を進めている。物資を積み込む期限は、打ち上げの80時間前までから24時間前へと大幅に短縮した。開発費は初号機が打ち上げ費用を除き356億円で、HTV-X全体は非公表。
こうのとりの輸送能力は、物資を格納する棚の重さ2トンを除き、4トンだった。これに対し、HTV-Xでは5.82トンへと増加。容積も60%増となった。ISSに係留できる期間は2カ月から半年へと大幅に延長。さらに、物資輸送の役目を終えてISSを離脱した後も、大気圏突入前に1年半ほど宇宙空間にとどまり、さまざまな機器や技術の実証実験に活用できるようにした。2030年まで運用されるISSのほか、米国主導の国際月探査「アルテミス計画」で月上空に建設する基地「ゲートウェー」や、将来の地球低軌道の民間宇宙基地への物資補給も視野に開発した。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の伊藤徳政プロジェクトマネージャは「こうのとりに比べ輸送能力がさらに向上。大気圏突入前に技術実証もできる。このような“二刀流”が大きな特徴だ」とアピール。三菱電機の鵜川晋一プロジェクト統括は「(同社が)さまざまな人工衛星と共に開発してきた多くの宇宙関連機器をうまく使い、機能や性能を向上させた」と話した。
日本はISS計画への参加にあたり、運用経費の分担金を技術提供の形で支払うこととし、こうのとりを開発した。米国のスペースシャトルが2011年に退役した後は、こうのとりが大型の船外用物資を運ぶ唯一の手段となり、バッテリーの輸送などを通じてISSに不可欠の存在となった。また、宇宙船を直接ISSに接触させて結合する従来のドッキング方式に代わり、まずISS船内の飛行士がロボットアームを操作して宇宙船を捉え、その後に結合する方式を初めて採用。日本が安全性を実証したことで、米国の民間宇宙船もこの方式を採用しており、HTV-XもISSでは踏襲する。
米露の全3機種の補給機が失敗を経験する中、こうのとりは2015年に退役した欧州の「ATV」とともに無事故を続けた。18年の7号機では、ISSからの離脱後に実験試料の入った小型カプセルを分離し、洋上に着水させ、日本初の独自の物資回収にも成功している。
こうのとり最終9号機が運用された2020年の時点で、HTV-Xは翌21年度にも運用を始める計画だった。H3の運用開始が遅れたほか、搭載するコンピューターや、飛行士が船外活動をする際にも安全基準を満たす太陽電池パネルの開発などに、時間がかかったという。
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