トヨタが次世代EVの投入を延期 混沌期を生き抜く〝したたか戦略〟

VWやステランティスは混乱

 自動車業界の電動化という流れの中で〝現実解〟を探る動きが出てきている。何が正解か判らない混沌期の中で、いったん立ち止まって次に跳ね上がる機会を狙うのがトヨタ自動車だ。

 同社は2026年に市場投入するとしていた次世代のEV(電気自動車)の生産開始を27年半ばに延期するという。もともと電動化に対しては「実需の変化に合わせ、ギリギリまで投資判断を引き付ける」(副社長の宮崎洋一氏)というスタンスだった。欧州を中心に世界的にEVの需要が鈍化していることを受け、開発期間を長く確保する考えだ。

 トヨタは23年の「ジャパンモビリティショー」で高級車ブランド「レクサス」の次世代EVのコンセプトモデルを発表していた。1回の充電で走行できる距離は1000キロと現状の倍以上で、フル充電の時間も20分と大幅に短縮。さらには車体の前部と後部を大型の鋳造設備で1つの部品として成形する「ギガキャスト」という新たな方式を導入するほか、車の機能を更新する新たなソフトウエアも搭載する計画だった。

 あるアナリストは「EVが後退する一方で、ハイブリッド車(HV)が好調だ。電動化の本命であるEVをさらに磨き上げるための研究開発費の原資を稼いでいる」と指摘する。既にトヨタは26年に年間150万台としていたEV販売の基準を100万台に減らすとしていた。その意味では「今はEVの本格的な普及期までの助走期間になっている」と分析する。

 対照的に海外勢は苦戦続きだ。EVに注力していた独・フォルクスワーゲンは創業以来初となる国内工場の閉鎖などを巡ってストライキが勃発。クライスラーやフィアット、プジョーなどを束ねるステランティスでは「北米での販売不振や販売戦略を巡る取締役会などの不一致が原因」(関係者)でCEOが辞任するなど経営の混乱が相次ぐ。

 年明けには米国でトランプ次期大統領が就任し、自動車業界もさらに不透明感が強まる。その中で着実に次の一手を打つトヨタがEVで先行する米テスラや中国・BYDの背中を捉えられるか。トヨタの〝したたか戦略〟の真骨頂が問われる局面だ。

下代博・ダイフク社長 「日本のマテハン技術は世界に冠たる技術。モノを動かす技術を食や環境の領域でも」