【主張】問われるリーダーの使命と覚悟

『つなぐ』という思想で

 お手本がない時代をどう生き抜くか――。

 大げさに言えば、今は日本の存在意義と変革力が問われている。人口減、少子化・高齢化、あるいは世界全体では戦争・内乱への危機、そして、最近は生成AI(人工知能)と人間の関係をどう位置付けるかといった課題を突きつけられている。

 今、求められているのは、経営の根本思想である。

 生成AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)で経営の効率化、デジタル化が進み、人々の個人生活の領域にまで、その便利さやスピードで重宝がられている。

 一方、政治・経済・社会・文化の各領域で、人間が生成AIに主導権を奪われるのではないかという危惧も生まれている。

 この点について、慶應義塾長の伊藤公平氏(1965年生まれ)は「あくまでも主役は人間」として、人間の尊厳を守り抜くことが大事と説く。 「AIは人間の能力を鍛える面もあるが、人間がAIをツールとして徹底的に使いこなすべき」という考えを強調。

 米大統領が2025年1月、トランプ氏に代わることで、先行き不透明感が増す。関税の税率引き上げやとにかく行政の規制緩和を急ぎ、さらには石炭・石油などのエネルギー再活用策をうたい、日本製鐵のUSスチール買収阻止、そして、中国からの輸入に〝高関税〟をかけるという対立構図も目立つ。

 しかし、今回の米大統領選で分断・対立や先行き不透明感が増すという考え方が多い中、「2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)に向けての考え方や、われわれ企業としての義務は何も変わらない」と語るのは、旭化成社長の工藤幸四郎氏。  中長期をにらんでの生き方・働き方改革を進めていくという同社の基本軸である。

 こうした混沌とした状況下、「日本には潜在力はある」――と産業界を叱咤激励するのは、三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏。

 半導体材料の素材では、「日本は最先端を走っている」と小宮山氏は語り、高機能に対する技術は「一朝一夕にはできない」と強調する。

 小宮山氏は自ら「プラチナ森林産業イニシアティブ」をつくってのバイオマス発電や、バイオマスからプラスチックをつくる技術の開発など、「日本には資源は十分にある」という考え方。もっと前向きに、アグレッシブに日本の潜在力を引き起こす時だという訴えである。

SNSにどう向き合うか

 スマートフォンが登場し、個人が自由に情報を発信できるSNS(交流サイト)の時代を迎え、人の生き方・働き方にも影響を与えている。

 2024年11月の兵庫県知事選、7月の東京都知事選でも指摘されたことだが、世論形成や選挙での投票のあり方が大きく変わってきたということ。特に兵庫県知事選ではパワハラ疑惑でメディアの集中攻撃を浴びた齋藤元彦氏が県議会から辞職をつきつけられて"失職"。

 選挙に打って出て、当初は与野党推薦の相手候補に惨敗すると見られていたものの、支持者たちのSNS活用により形成逆転。齋藤氏は再選を果たした。

 この結果に、オールドメディア(新聞、テレビ)がSNSに負けたという見方がある。わたしたちはこれを単なるオールドメディア対SNS(ネット)との対立とは捉えたくない。どちらも情報を伝える、いわゆる、メディア(媒介)という存在である。

 要は、事実や真実はなんであるのか? という考察が必要だと思う。

 新聞やテレビは情報を収集し、それがファクト(事実)であるかどうかを検証し、情報を発信するまでの各段階でチェックする機能を持つ。

 一方、SNSは個人が情報を発信し、不特定多数がそれを受けて拡散していく。しかし、その影響を危ぶむ声もある。

「ネット情報は敵か味方かを判断し、そして、自分が気に入ったら情報を拡散していく。その情報がファクトかどうかは関係なく拡散するところに危惧を覚える」と指摘する声も強い。ともあれ、判断するのは「人」だ。

 AIが今後どれだけ進化しても、「人が主役」という認識や判断基軸が大事である。

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