千葉エコ・エネルギー 馬上丈司の社会課題解決論「営農型太陽光発電で農業と再エネの両立を」

持続可能な 営農モデルとして注目

 千葉市郊外にある田園地帯。そこでは農地の上に支柱を立て、太陽光発電を行いながら、その下で農業を行う新しい農業モデルが推進されている。1つの農地で農作物の栽培と発電を同時に行う「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」だ。

 ここは千葉エコ・エネルギーが運営する「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」。農地面積は1ヘクタール(1万平方メートル)。ここに高さ4メートルの支柱を立て、サツマイモ、ジャガイモ、ブルーベリー、ブロッコリー、ナスなど、様々な農作物が栽培されている。

「日本の国土の13%が農地。将来的に再生可能エネルギー100%の社会を目指していくには、膨大な量の太陽光発電が必要になってくる。この時の適地として農地を活用し、農業と再エネが両立できるのであれば、非常にポテンシャルが広がっていくなと思った。エネルギーと食は社会に不可欠なものであり、営農型太陽光発電を通して社会課題の解決に貢献していく」

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 千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏はこう語る。

 同社は千葉大学発ベンチャーとして、2012年に設立。営農型太陽光発電を展開し、農作物の販売と売電による2つの収入を得る新たなビジネスモデルを構築している。農業に使うエネルギーは、太陽光パネルから発電された電力で賄うことができる。まさに"地産地消"のビジネスモデルである。

 馬上氏によると、1ヘクタールの農場運営で、農産物の年間売上は平均300万円。コストを差し引くと、約半分の150万円が手元に残る。それに対し、千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機では、年間の売電売り上げは約2400万円、半分がコストだとしても、残りは1200万円。単純に合計すれば、約1350万円が収入となる計算。

 農業従事者の高齢化や農家の担い手不足、そして、日本のエネルギー確保が課題となる中、営農型太陽光発電が持続可能な営農モデルとして注目される所以だ。

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 馬上氏は1983年東京都生まれ。漠然と高校時代から、化石燃料を使わない社会をどのようにつくっていくか? そして、太陽光などの自然エネルギーをどう増やしていくか? といった環境問題に興味があった。

 千葉大学入学後は日本のエネルギー政策を専門に、太陽光や風力、水力、地熱などの自然エネルギーを研究してきた。その後、千葉大学大学院人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、大学の特任講師として働いていた。

 大きな転機となったのは、2011年の東日本大震災。父の実家が小名浜(福島県いわき市)で、現地に足を運んでいるうちに、復興に向けて自分も何か役に立つことはできないか? と考えるようになった。

「もともと福島県は再エネ導入に積極的な土地柄で、東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に、地元の方もエネルギーを変えていきたいと。だったら、自分がそれまで研究してきたことが再エネ普及に役に立つし、復興につながるのではないかと考えた」(馬上氏)

 そして、2012年に千葉エコ・エネルギーを設立。特任講師だった馬上氏が29歳、大学生3人と共にたった4人での創業だった。

 当初は自治体の再エネ計画や地球温暖化対策、環境保全計画などのコンサルタントとして事業をスタート。この頃、日本では、政府の肝いりで始まったFIT(固定価格買取制度)を活用した太陽光発電事業者の参入が相次いでいたが、馬上氏は「補助金をもらって儲かるから参入するという人たちも多かったが、適地が無くなったらすぐに限界がくることも目に見えていた」という。

 誰でもできるようなことをやっても仕方ない。そう考えていた翌2013年、千葉県内で営農型太陽光発電の現場を見に行く機会があった。ここで「これなら自分たちでもできるのではないかと考えた」のが、営農型太陽光発電に関わるようになったきっかけだ。

やっとスタートラインに 立ったくらい

 現在、同社は他の場所でも営農型太陽光発電を運営。すでに東京ドーム2個分以上となる11.2ヘクタール(取得予定を含む)の農場を手掛けている。農作物は地元のレストランや居酒屋、道の駅などで販売している。

 近年は自社の農場運営だけでなく、全国各地で営農型太陽光発電の事業化支援にも注力。すでに国内事例の約10%にあたる累計500件以上の支援を手掛けている。かつては農家の参入が多かった営農型太陽光発電も、最近は清水建設やワタミ、⻄武グループなどの大企業が参入する事例も増えてきており、徐々に手応えを感じている様子だ。

 日本は食料自給率38%、エネルギー自給率に至っては13%しかなく、資源のほとんどを海外からの輸入に頼っているのが現状。こうした状況下にあって、営農型太陽光発電の活用は、日本のエネルギー確保や農業振興の両立へ向けて、一つの手段になり得るのではないか。

「12年経って、やっとスタートラインに立ったくらい。今まではストレッチをやって、準備運動をしていたようなもの。やはり、エネルギーや農業は政策がついてこないといけないが、最近は農林水産省や経済産業省や政治家の方も関心を向けてくれるようになったので、産官学の連携で様々な取り組みを進めていきたい」と語る馬上氏。

 新たな農業形態、新たなエネルギー確保に向け、馬上氏の挑戦はまだ始まったばかりだ。

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