超高精度で1秒を刻む「光格子時計」の装置容量を、従来の920リットルから約4分の1にあたる250リットルまで小型化することに、東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授らのグループが成功した。重さは約200キロで、数年内に商用化が見込まれるまで小さくなった。各地で利用が進むと、世界共通となる時間や重さなどの単位を定義する国際度量衡総会が2030年に予定している「秒」の再定義に、光格子時計が採用される可能性がより高くなる。
「1秒」の定義は、時代によって変わる。1956年までは地球自転を24時間、1967年までは地球が太陽の周りを一周する1年間から1秒を割り出した。だが、自転や公転の速度が一定ではないため、天文の知見から割り出した1秒は正確ではなかった。20世紀半ば、原子が特定の周波数のマイクロ波を吸収する性質を利用して時間を刻む「セシウム原子時計」ができ、商用化と同時期の1967年に1秒の長さを定める国際基準となった。セシウム原子時計は1990年ごろから、原子を泉のように打ち上げて落ちてくるところを計測する「セシウム原子泉時計」が精度を上げている。
光格子時計は量子エレクトロニクスを研究する香取教授が2001年に提唱した。「魔法波長」と呼ばれる特別な波長のレーザー光を上下、左右、前後で干渉させて原子をひとつずつ捉える入れ物(光格子)をつくり、捉えた原子が吸収する光の周波数を用いて時間を刻む。ストロンチウム原子の光格子時計では、セシウム原子時計と比べて、100倍以上の高精度を誇る。およそ100億年に1秒のずれに相当する精度だ。
2014年に開発した光格子時計は実験室に据え置くほど大きく、持ち出すことはできなかったが、2020年には装置体積920リットルまで小型化。その2台を東京スカイツリー(東京都墨田区)の地上階と展望台の2カ所に置き、高さによる時間の進み方の違いを計測した。今回、空間的な均一磁場を発生させるコイルや黒体輻射シールドをコンパクトにまとめ、原子を捉える光格子を生み出す「物理パッケージ」部分を小さくした。
溶接手法や冷却方法、コネクターの配置も改良し、レーザー光の生成や制御をする「レーザー/制御システム」も小型化し、250リットルを達成した。各機器は取り外し可能で、概ね40センチ×80センチ程度のラック2つに収まる。
「1秒」の定義については、4年に1回開かれる国際度量衡総会が2022年に「30年に再定義をする」と告知した。26年に再定義の方法を決めて、30年に再定義をする予定となっている。現在の定義であるセシウム原子時計を再定義する方法として、より精度を高めたセシウム原子泉時計や原子線を用いる「水素メーザー」、「単一イオン光時計」、光格子時計の中でもストロンチウム原子でなくイッテルビウム原子を使うものが候補に挙がる。水素メーザーは温度管理、単一イオン光時計は計測に時間がかかるという不利な点があり、光格子時計は再定義方法の有力候補だ。
研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業の支援を受け、理化学研究所、島津製作所、日本電子と共同で行った。今後は島津製作所が商用化を担う。
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