三菱電機は12月10日、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」のサービスモジュール本体の完成機体を、同社鎌倉製作所で報道関係者に公開した。1号機は2025年度以降、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のH3ロケットで打上げる予定だ。

  • 三菱電機 鎌倉製作所で公開された、HTV-X 1号機のサービスモジュール本体

  • 三菱電機 鎌倉製作所の外観(11月27日撮影)

HTV-Xは、国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を行う無人補給機として、2009年から計9機のミッションを完遂した「こうのとり」(HTV)をベースに開発中の後継機。主ミッションである輸送能力向上に加え、軌道上での技術実証への拡張や、将来の宇宙探査への適用も想定しており、HTV-X全体もしくは主要部の技術を有人宇宙ミッションに活用できるように開発を進めている。将来的には、月周回有人拠点(Gateway)への物資補給構想についても検討中。

機体の構成としては、船外実験装置などを載せる「曝露カーゴ搭載部」、航法・誘導制御や通信・電力・推進系などを担う「サービスモジュール本体」(SM)、与圧補給物資を搭載する「与圧モジュール」の3つに大きく分かれており、三菱電機はこのうち曝露カーゴ搭載部とサービスモジュール本体の開発・製造を担当している。

  • HTV-Xの詳細

HTV-Xの打上げには、H3ロケットの「H3-24W」形態(LE-9エンジン2基、SRB-3 4本、スイス・Beyond Gravity製の特注フェアリング)が使われる予定。射場での機器等へのアクセス性(点検や取り外し)を高めるため、フェアリングには人が立ち入れるようにハッチが設けられているのが大きな特徴。HTV-Xの設計にあたり、長期保存できない生鮮品などを打上げ前に射場で積み込めるよう“レイトアクセス能力”を高めることを目標のひとつとしており、打上げ24時間前まで短縮したのも、HTVからの進化点のひとつだ(従来のHTVは80時間前まで)。

  • HTV-XをH3-24Wのフェアリング内に格納して積み込み作業するイメージ(右)。左は従来のHTVの積み込みイメージ

HTV-Xのサービスモジュールは通信系や電力系、推進系、曝露カーゴ部に至るまで大きく進化。

具体的には、人工衛星やISSとの通信に加えて、地上局との直接通信も可能にしたほか、電力系では30秒から1分ほどかけて側面に翼のように大きく展開する太陽電池パドルを新たに搭載。HTVでは内部機器の駆動用にフル充電した1次電池と、側面の太陽電池パネルで充電する2次電池を積んでいたが、HTV-Xでは太陽電池パドルで充分な発電量が得られることから、1次電池を廃して2次電池(リチウムイオンバッテリー)に集約している。さらにISSからの充電機能なども追加した。

ISSへのランデブー誘導制御方式はHTVの実績を継承しつつ、2号機からは自動ドッキング制御機能を追加する予定で、自律飛行を可能にする。推進系の大きな変更点としては、HTVにあったメインエンジン(500N)×4台をなくし、姿勢制御用のRCSスラスタ(120N)×24台のみを推進系搭載部に機能集約してモジュール化。HTVのRCSスラスタは28台だったが、HTV-Xでは24台のみで(メインエンジンがなくても)充分な推力が得られる設計になっているとのことだ。搭載推薬量は、飛行期間の長期化など将来的なミッションへの対応も見込み、2.6tへと増量している(従来は2.3t)。

  • HTV-X 1号機はISSよりも低い軌道からISSに近づき、ロボットアームで掴んでもらってドッキングする

HTV-Xは、ISSへの物資補給機会を活かし、ISS離脱後から再突入までの間、軌道上での技術実証や実験を行うプラットフォームとしても活用される予定。1号機では、ISSよりも高い高度(最大500km)から6Uサイズの超小型衛星最大4機を放出するほか、JAXAが開発した衛星レーザ測距(SLR)用小型リフレクター「Mt.FUJI」を用いたHTV-Xの精密起動・姿勢推定ミッション、展開型軽量平面アンテナ「DELIGHT」の軌道上実証を実施予定だ。

  • HTV-XはISSへの物資補給だけでなく、技術実証プラットフォームとしても活かされる予定

HTV-Xに新設した曝露カーゴ搭載部は、カーゴ搭載構造と本体構造を一体化したもので、従来よりも大型の機材や実証ミッションを積み込めるようにしたという(従来のHTVは非与圧部に曝露カーゴ搭載、HTV-Xには非与圧部なし)。2号機以降で行う、自動ドッキング技術実証のための機材は曝露カーゴ搭載部に取り付けられることになる。

  • 曝露カーゴ搭載部。JAXAの担当者によるとここは“天板”と呼ばれており、各種機材を搭載するためのグリッドが切ってあるとのこと

  • 2号機以降で行う、自動ドッキング技術実証のイメージ

  • 自動ドッキング技術実証では従来のHTVやHTV-X 1号機とは異なり、ISSよりも高い高度から上部にランデブーするかたちになるそうだ

HTV-Xは現在、1〜3号機を開発中で、1号機の与圧モジュールは2022年8月に種子島宇宙センターへの輸送を完了。今回、機体公開したサービスモジュール本体も既に試験を完了しており、曝露カーゴ搭載部とともに射場輸送など打上げに向けた準備を進めている。また、JAXA筑波宇宙センターでは運用管制室(HTV-X MCR)の整備を完了しており、運用試験を継続的に実施しているとのこと。2号機と3号機については、サービスモジュールの製造・試験を実施中で、2号機の実証により自動ドッキング技術を確立することをめざす。

  • HTV-X サービスモジュール本体の隣に人が立つと、サイズ感がよく分かる

  • HTV-X サービスモジュール本体に取り付けられている各種機材の概要

  • ISSに加え、地上局との直接通信も可能にするアンテナを上部(一番上の赤いカバーに覆われている部分)に搭載。そのすぐ下にあるふたつの四角い部分が、ISSとのランデブ用センサ(主)。青いカバーで覆われているのがランデブ用センサ(従)。ランデブ用センサ(従)の左右に各1基あるカバー内のものは、NASAのデータ中継衛星と通信するためのIOSアンテナ

  • HTV-Xの通信関連では、HTVと同様のISS・NASAデータ中継衛星との通信に加え、地上局と直接通信する機能が新たに加わっている

  • 計24台あるRCSスラスタのうちの6台をアップでとらえてみた

  • 恒星の位置を把握し、機体の姿勢を制御するためのスタートラッカ

  • 両側面の太陽電池パドル(写真では折りたたまれている)の展開のようすをチェックするためのモニターカメラ。太陽電池パドルのチェック専用なので、ISSや地球などの映像は写らないとのこと

  • ISS側のロボットアームで掴むための把手(PVGF)。ここを介してISS側からHTV-Xに電源供給することもできる

  • ISSからの電力を受ける、ISS DCDCと名付けられた機材の放熱板が見えている。反対側にも2台あり、計3台搭載されるとのことだが、実は写真右隣にもう1台ISS DCDCを加え、4台構成にもできるそうだ

HTV-Xの主要諸元は以下の通り。

  • 全長:約8m(うちサービスモジュール約5.2m)
  • 直径:約4.4m
    • 太陽電池パドル展開時:約18m
  • 質量:約16t(うちサービスモジュール約3.7t)
    • 機体 約7.7t
    • 推薬 約2.6t
    • 補給能力:与圧カーゴ最大4.07t/曝露カーゴ最大1.75t
    • (技術実証ミッション機器と合わせて最大2t)
  • 軌道:300〜500km
  • ISS係留期間:最長6カ月
  • ISS離脱後飛行能力:最長1.5年
  • 会見会場に置かれていた、1/35スケールのHTV-Xの模型

  • HTV-Xの模型でいうと、写真に写っているあたりの機体が今回公開されたかたちだ

  • HTV-Xの今後の展開