日本の国力を上げる時!
「日本の国力を上げていくしかない。実際、それを皆で力を合わせてやっていく時だと思う」
世界の分断・対立が深まり、日本の存在意義が問われている今、某経済リーダーはこうした言葉を述べる。
米国の新大統領にドナルド・トランプ前大統領が返り咲くことになった。 『MAGA(Make America Great Again、アメリカを再び偉大な国に)』─。
このスローガン自体はいいが、問題は中身である。
保護主義に傾き、全ての関税率を10―20%にし、特定のターゲット国に対しては100%の関税も─という方針に、世界中が身構える。
グローバルに活動している某経済人は、「これからの米国はフリー(自由に)、フェア(公正に)、オープン(公開、開放的)に貿易や投資を進めるという原則からかけ離れた国になる」と話し、「世界経済は波乱含みになるし、日本もそれなりの覚悟が求められる」と気を引き締める。
まさに混沌・混乱の中をどう生き抜くかという命題である。
自給率の低い日本は?
日本の食料自給率は38%、エネルギー自給率は12%と先進7カ国の中でも、日本は最も低い。
国の防衛・セキュリティを固めるには、日米同盟が基軸になるが、同時に東南アジアやEU(欧州連合)などとの連携も大事。
食料や資源エネルギーなど、国民の生活や産業活動に不可欠な物資を海外に頼る日本にとって、大事なのは『自助』の精神。まず、自らの努力で自給率を高めていくこと。それで限界があれば、同盟国や友好国からの農作物・飼料やエネルギー輸入という形で『共助』のステージに移る。
米国のトランプ次期大統領は、第一期目に日本の防衛費負担増を求めてきた。
氏は『米国ファースト(第一主義)』の考えから、「なぜ、米国が他国の防衛まで担わなければならないのか?」という疑問を投げかける。
北朝鮮の度重なる大陸間弾道ミサイル実験や、ウクライナ戦争への兵士投入、さらに中国・習近平政権が2027年までに台湾統一の準備を整えるなどの憶測が流れる中、日本も防衛・セキュリティに万全を期していかなければならない。
10月に総選挙が行われ、与党(自由民主党、公明党)は過半数割れとなった。国家運営の基本軸をしっかり定めなければ、時代の荒波にのまれ、日本は漂流してしまう怖れがある。
国を運営していく上での基本軸づくりに向けて、与野党の違いを越えて協力してほしいと思う。
民主主義とは何か?
「民主主義とは何か?」─。この問いは、トランプ時代にあって、問われ続ける政治的課題。
米国自身はGDP(国内総生産)で世界一の経済大国だが、かつての余裕を失いつつある。それは、今回の大統領選の〝激戦7州〟での攻防戦一つを取っても言える。〝ラスト・ベルト(Rust Belt、錆びた工業地帯)〟と言われるミシガン、ペンシルベニア州などはかつて盛んであった鉄鋼業、自動車産業が低迷し、不振の続く地域。
雇用・失業問題を抱え、排外的になり、日本製鉄のUSスチール買収をめぐる軋轢も、〝余裕のない米国〟から産まれた問題だ。
民主主義の〝宣教師〟だったかつての面影は今の米国にはない。ウクライナ危機でも、トランプ氏は同国支援に消極的で、自国の出費抑制のために『即時停戦』を訴える。
侵略国・ロシアのプーチン大統領を利する形での停戦となる可能性もあり得る。戦争が無くなるのは良いことだが、一方で他国を侵略しても許されるという土壌を残す形になれば、今後の世界秩序形成にも大きな影響が出る。
ロシアだけではなく、中国、北朝鮮や東欧のベラルーシ、さらにはハンガリーなどでも専制主義の台頭が目立つ。世界に緊張が走るのはこのためだ。
チャーチルの名言に・・・
かつての共産主義(社会主義)対資本主義の対立、つまり冷戦構造は、専制主義対民主主義の対立という図式に変わりつつある。
民主主義国であるはずの米国で今回、トランプ氏が返り咲きの勝利を収めた。氏も「団結」を訴えるが、分断と対立の国内の政治状況をどうまとめていくのか。 第二次世界大戦当時、英国を主導したW・チャーチルはこう言った。
「民主主義は最悪の政治形態と言われてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」
ウィット(機知)に富み、ユーモア精神の持ち主でもあったチャーチルのこの警句は、民主主義についてあれこれ考えさせられる。
要は、民主主義にはいろいろな課題、弊害もあるが、やりようによっては、これに勝る政治形態は無いということ。それこそ、フリーに、フェアに、オープンに議論をして、多数派となった側が少数派にも心配りしていけるだけの余裕、度量を持てるかどうかだ。
民主主義の危機は、現状ニッポンにも当てはまる。長らく政治改革に取り組んでこられた北川正恭氏(元国会議員、元三重県知事)にインタビューし、氏の「日本は民主主義国たれ」の訴えを聞いた。
まさに、リーダーの責任は重い。
財界賞に小林健さん
弊誌『財界』主催の令和6年度『財界賞・経営者賞』選考委員会が11月7日(木)開かれ、『財界賞』には日本商工会議所会頭(東京商工会議所会頭)の小林健さんへの授賞が決まった。
授賞の最大の理由は、日本の産業界で全企業の99%、雇用全体の7割を占める中小企業の生産性向上なくして、日本の再生はない─という信念の下、中小企業の活性化に努めておられることである。
各選考委員の評価は、弊誌『新年特大号』(12月上旬発売)に詳しく掲載されるので、そちらも参照していただきたい。
今まさに、日本は真の意味で再生できるかどうかの大事な分岐点に差し掛かっている。賃上げが声高に叫ばれているが、生産性の向上なくして、賃上げも実現できない。その点でも国全体の構造改革、企業活動のあり方、さらに生き方・働き方改革を含めて、真剣に考え、行動に移していかなくてはならない。
『財界賞特別賞』は深澤祐二さん(JR東日本会長)が受賞。首都圏のエキナカ開発だけでなく、地方の駅周辺開発にも注力されていることが評価された。
『経営者賞』はスポーツ・健康関連の廣田康人さん(アシックス会長CEO)をはじめ、日本航空で女性初の社長・鳥取三津子さん、電炉で高張力鋼板をつくる技術を持つ東京製鐵社長・奈良暢明さん、さらにオタフクホールディングス会長の佐々木茂喜さんや、千葉大学発のベンチャー、千葉エコ・エネルギー代表の馬上丈司さんなどが選ばれた。
いずれも日本を元気にしてくれる経営者であり、リーダーだ。『財界』誌もこれらの人たちと共に手を携えて行動していきたい。