米国航空宇宙局(NASA)は2024年11月19日、国際有人月探査計画「アルテミス」の一環として、スペースXとブルー・オリジンの2社と、大型の貨物を月面へ運ぶ契約をまもなく締結すると発表した。

このうちスペースXは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がトヨタなどが開発している有人与圧ローバー「ルナクルーザー」を運び、ブルー・オリジンは居住施設を運ぶという。

  • スペースXが開発するスターシップ月面貨物船

    スペースXが開発するスターシップ月面貨物船と、ブルー・オリジンが開発するブルー・ムーン月面貨物船の想像図 (C) SpaceX/Blue Origin/NASA

アルテミス(Artemis)計画は、米国を中心に、欧州や日本、カナダが共同で進めている有人月探査計画で、実現すればアポロ計画以来、約半世紀ぶりに人類が月に降り立つことになる。

また、アポロ計画とは異なり、水があるとされる月の南極を探査するほか、継続的に探査を行い、将来の有人火星探査の実現につなげることを目指している。

さらに、民間企業が主体的に参画することで、計画のコスト削減や宇宙ビジネスの振興なども図られている。

有人月着陸における最大の肝となる月着陸船も、民間企業が開発している。イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースX(SpaceX)は、開発中の宇宙船「スターシップ(Starship)」の月着陸船バージョン「スターシップHLS」を開発しており、最初の有人月着陸ミッション「アルテミスIII」と、「アルテミスIV」で使用する計画となっている。

また、ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジン(Blue Origin)は、「ブルー・ムーン(Blue Moon)」着陸船を開発しており、「アルテミスV」で使用する予定になっている。

こうした中、NASAは2023年に両社に対して、それぞれの月着陸船をベースとした、大型の機器などを輸送できる貨物船の開発を依頼した。輸送能力の要求は、月面に12~15tとされる。

現在、両社は設計を進めており、今後設計認証審査を行い、合格すれば、実証ミッションを行う。NASAは早ければ2025年初頭にも、両社に対して最初の提案依頼書を発行する予定だとしている。

NASAによると、少なくとも2回の大型貨物の輸送ミッションを計画しており、そのうちスペースXのスターシップは、現在JAXAとトヨタなどが開発中の有人与圧ローバー「ルナクルーザー」を運ぶという。打ち上げは2032年会計年度以降の予定で、「アルテミスVII」以降のミッションで使用することを念頭に置いたスケジュールだとしている。

スターシップはこれまでに6回の飛行試験を行い、徐々に完成度を高めつつある。ただ、軌道投入をはじめ、完全な宇宙飛行に成功したことはない。また、月面へは100t以上の強大な打ち上げ能力をもつものの、そのためには地球周回軌道上でスターシップ同士を複数回ドッキングさせ、推進薬の補給を受ける必要があり、その技術実証もまだ行われたことがないなど、完成に向けては多くのハードルがある。

  • スペースXが開発するスターシップの想像図

    スペースXが開発するスターシップの想像図 (C) SpaceX

一方、ブルー・オリジンのブルー・ムーンは、2033年会計年度以降に月面での宇宙飛行士の居住施設を運ぶ予定だという。

ブルー・ムーンは、機体を再使用する場合では最大20t、月面で使い捨てる片道ミッションでは最大30tのペイロードを運ぶことができる。ただ、同社はまだ軌道飛行を行った実績がないばかりか、ブルー・ムーンを打ち上げる「ニュー・グレン」ロケットも開発中であるなど、こちらも実現に向けたハードルは多い。

  • ブルー・オリジンが開発するブルー・ムーン月面貨物船の想像図

    ブルー・オリジンが開発するブルー・ムーン月面貨物船の想像図 (C) Blue Origin

NASAマーシャル宇宙飛行センターで有人着陸システムのプログラム・マネージャーを務めるLisa Watson-Morgan氏は、両社のそれぞれのミッションについて、「宇宙飛行士用の着陸船と、貨物用着陸船の両方の、現時点までの開発の進捗状況、そして貨物用着陸船のアルテミス・ミッションのスケジュールを考慮した結果です」と語る。

また、NASAの月・火星プログラム局のStephen D. Creech氏は「アルテミス計画は、国際、産業界のパートナーとの共同作業です。宇宙飛行士と貨物の月面輸送能力において、異なるアプローチを取る2つの月着陸船の開発業者が存在することで、ミッションの柔軟性が確保されると同時に、継続的な発見と科学的機会のために月面着陸を定期的に実施できるようになります」と、その意義を語る。

NASAではこれとは別に、小型の科学観測機器などを月面に運ぶことを目的とした着陸船の開発、運用も民間に委託しており、アストロボティク・テクノロジー(Astrobotic Technology)、インテュイティブ・マシーンズ(Intuitive Machines)、日本のispaceも参加しているチーム・ドレイパー(Team Draper)、そしてファイアフライ・エアロスペース(Firefly Aerospace)といった企業が参画している。

  • スターシップ月面貨物船が運ぶ予定の、JAXAなどが開発しているルナクルーザーの想像図

    スターシップ月面貨物船が運ぶ予定の、JAXAなどが開発しているルナクルーザーの想像図 (C) JAXA/TOYOTA

参考文献

NASA Plans to Assign Missions for Two Future Artemis Cargo Landers - NASA
SpaceX - Starship
Blue Moon | Blue Origin
Commercial Lunar Payload Services (CLPS) Deliveries - NASA Science