東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は12月5日、アルマ望遠鏡の観測データを用いた分析から、初期宇宙から銀河がどのように進化してきたかについての理解を深める成果として、初期宇宙の楕円銀河の一種である「高輝度スターバースト銀河」の中心領域での活発な星形成により、球状構造が直接形成されたことを示す証拠を発見したと発表した。
同成果は、Kavli IPMUのジョン・シルバーマン教授、同・ボリス・カリタ特任研究員、同・劉兆軒大学院生らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
現在の宇宙における銀河の形態は多様だが、大まかに2つのカテゴリーに分類される。我々の天の川銀河のような、まだ星形成中の若い“円盤状渦巻銀河”と、星形成を終えてガスもほとんどなく中心部の球状構造であるバルジが支配的な古い“楕円銀河”だ。これらの球状構造を持つ銀河には非常に古い星が存在するが、その形成過程はこれまでよくわかっていなかった。
そこで研究チームは今回、アルマ望遠鏡が観測した、宇宙がまだ16億~59億歳ごろ、多くの銀河が活発に星形成を行っていた「宇宙の正午」時代における、100を超える「サブミリ波輝線銀河」のデータ(アルマ望遠鏡観測データのアーカイブプロジェクト「A3COSMOS」および「A3GOODSS」)を分析し、巨大な楕円銀河の誕生の現場を確認したという。
今回の研究では、サブミリ波帯における塵の放射の表面輝度分布の統計解析と、新しい解析手法が組み合わされた。その結果、サンプルのほとんどの銀河におけるサブミリ波放射は非常にコンパクトであり、円盤銀河に見られる表面輝度の分布が指数関数的な分布を持つ銀河とは大きく異なっていることを突き止めたとする。研究チームはこの結果について、サブミリ波放射が通常すでに球状に近い構造から発生していることを示唆しているとした。またこの球状構造のさらなる証拠は、銀河の3次元的な詳細分析から得られたといい、軸比の分布に基づくモデル化によって、3軸のうち最も短い軸と最も長い軸の比率は平均で半分であり、空間的な密集度が高まるにつれて増加することが示されたとする。なおこれは、星形成が活発な銀河の大半は、本来は円盤状ではなく球状であることが示されているとしている。
この発見は数値シミュレーションによって裏付けられ、このような球状構造を持つ銀河の形成の主なメカニズムは、冷たいガスの降着と銀河の相互作用が同時に起こるためであると示されたという。この過程は、大半の球状の銀河が形成された宇宙初期においては、かなり一般的な事象だったと考えられているとしており、また今回の発見は、銀河形成の理解を再定義する可能性も秘めているとする。
研究チームによると今後は、長年にわたり蓄積された豊富な観測データと、解像度と感度を向上させた新しいサブミリ波およびミリ波観測を組み合わせることで、銀河内の冷たいガスの系統的な研究が可能になるという。これにより、星形成の燃料となる冷たいガスの分布と運動について、これまでにない洞察が得られることが考えられるとした。また、銀河の恒星成分をマッピングする強力な機能を持つ宇宙望遠鏡「ユークリッド」(欧州宇宙機関とユークリッド・コンソーシアムが共同開発して2023年7月に打ち上げられた) 、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、中国最大の光学宇宙施設として開発中の「中国宇宙ステーション望遠鏡(別名:巡天)」などにより、初期の銀河形成のより完全な全体像が明らかになるかもしれないといい、今回の成果と今後得られていく洞察を総合的に理解することで、宇宙全体がどのようにして時を経て進化してきたのかについて理解が深まることが期待されるとしている。