こんにちは! 科学コミュニケーターの片岡です。

みなさん、「地球飯(ちきゅうめし)」って聞いたことありますか?

未来館では、Mirai can NOW第8弾となる展示『地球飯~Tasty, Healthy, Earth-friendly』を2024年9月11日から12月9日まで開催しています。

Mirai can NOW第8弾 地球飯~Tasty, Healthy, Earth-friendly 展示会場

地球飯って?

私たちが毎日食べているごはんは、食材をつくるところから長い道のりをへて、私たちの食卓にたどり着きます。そして実は、この道のりの間に自然環境や私たちの体に影響を及ぼしています。

例えば、食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」。食品ロスは、捨てられる食材の分エネルギーがムダになります。食べ物が捨てられている一方で、世界では食べ物がいきわたらず十分にごはんを食べられない人が多くいます。また、お肉などは動物を育てるためのエサや土地・水などが野菜などの植物より多くかかり、自然環境への負担になっています。さらに、お肉を食べすぎるなど栄養バランスのかたよった食事をすることは、私たちの体の健康にもよくありません。

自然環境や私たちの健康に負担をかけ続ける食事のしくみは、これから先、長く続けることはできないでしょう。

 

では、こういった影響を小さくするにはどうしたらよいでしょうか?

 

  • 食品ロスをへらすこと
  • お肉に多いタンパク質という栄養素の取り方を考えること
  • 地域の食材を選んだり、ごはんを食べるまでの仕組みを考え直したりすること

今回未来館では、大きくこの3つの取り組みを取り入れたごはんを「地球飯」と呼び、地球にも人にもやさしいごはんをみなさんと一緒に考えたいと思っています。

地球飯の3つの取り組み

トークイベント「鍋からはじめる地球飯!」

そして、地球飯を具体的にみなさんと考えるべく、2024年11月23日(土)に、お鍋料理に注目したトークイベントを実施しました!

 

イベントでは、料理研究家のコウケンテツさんと、女子栄養大学の林芙美さんをゲストにお招きして、一緒にお鍋の可能性を探りながら、地球飯を考えていただきました。

林さんは、栄養的にも環境的にも健康な食事を研究していて、今回の地球飯のパネル制作にご協力いただきました。


またコウさんには、動物性のお肉よりも環境や体への負担が小さい、植物性食品であるとうふをつかった「とうふ焼き肉丼と彩りレンジナムル」のオリジナルレシピ開発にご協力いただきました。

ゲストのおふたり(女子栄養大学 林芙美さん、料理研究家 コウケンテツさん)
地球飯「とうふ焼き肉丼と彩りレンジナムル」豆腐に卵をまとわせることで、タレが良くからみ、食べ応えのあるごはんにできるそうです。

地域に根差した多種多様な鍋料理

まずはコウさんから、実際にご自身が使っているさまざまな形のお鍋を前に、世界のお鍋料理をご紹介していただきました。

 

海に面した国ポルトガルでは、漁師の方々が家庭で受け継ぎながらつかう「カタプラーナ」というお鍋があります。海産物をすぐにおいしく調理できる、漁師のほこりともいえる調理器具だそうです。他にも、雨の少ない地域にある国モロッコでは、「タジン」というとんがり帽子のような形が特徴的なお鍋を使って、水を使わないお料理をつくるそうです。

また韓国では、煮込み料理が得意なお鍋「トゥッペギ」、韓国版すき焼きといわれるお料理がつくれる「チョンゴル」というお鍋、焼き料理が得意な「サムギョプサル鍋」など、さまざまなお鍋があり、とてもカラフルなお料理がつくられるそうです。

 

そして、コウさんが取材をした古代料理研究家の方によると、ギリシャでは大昔から土器で鍋やフライパンの役割をする調理機器をつくり、ごはんを食べていたそうです。

 

長い歴史の中で、お鍋料理は地域ごとに多様に広がり、文化として根付き、今の時代でも親しまれているお料理であることがわかりました!

タジン鍋を手に取り、紹介するコウケンテツさん
コウさんが実際に使われているさまざまな世界のお鍋

栄養もかんたんにたくさん取れるお鍋料理

続いて、林さんからは、お鍋料理を栄養と環境の側面からお話いただきました。

「私たちの食べ方が変わってきている今、鍋料理をぜひ見直していただきたいと思います。」と林さんは言います。

 

社会や生活スタイルが変化する中で、私たちの食生活は、2000年代から徐々に、お肉の食べる量が増え、お野菜の食べる量は減ってきているそうです。

 

体の健康を考えると、「主食(ごはん、めんなど)」・「主菜(肉、魚、大豆類など)」・「副菜(野菜、きのこ、海藻など)」をそろえた食事をすることで、さまざまな食材を食べることができ、栄養素もバランスよく摂取することができるそうです。

その点、お鍋料理は1つでこの3つの要素をそろえることができ、不足しがちなお野菜もたくさんとることができます。さらに、お野菜などを先に食べた後で、シメとしてお米やめんをいただくという食べ方は血糖値の上昇を小さくするそうです。

 

簡単につくれて手抜き料理と思われがちなお鍋ですが、実は体の健康を整えやすいお料理だったのですね!

お鍋料理のメリットをお話しくださる林芙美さん

地球飯なお鍋、「地球鍋」を考えるために……

これまでのお話しから、いいことづくしに見えるお鍋。

しかし林さんによると、塩分のとりすぎと、食べ過ぎには注意が必要とのこと。

 

とくに、食べ過ぎによって、ついついとりすぎてしまう栄養素の一つが、タンパク質。筋肉や血液のもとになる大事な栄養素ですが、とりすぎは太ってしまう原因にもなります。また、タンパク質はお肉からたくさんとることができますが、これは環境への影響とも関係します。

 

地球温暖化の原因とされる二酸化炭素などの温室効果ガスで比較すると、お肉は野菜や豆類に比べて生産段階での排出量が多いことがわかっています。特に牛肉やぶた肉からの排出量が多く、一方でとり肉からの排出量は比較的少ないとされています。お鍋のメインとなる食材に何を選ぶかによって、環境への負担が変わります。林さんによると、栄養と環境にやさしいお鍋は、野菜やきのこを多めに、タンパク質はとうふなどの大豆食品と組み合わせることを意識するとよいそうです。

主なお鍋料理の特徴(画像提供:林芙美さん)

一方で、お客さんに好きなお鍋を聞いたところ、ぶた肉と白菜を交互に挟んだミルフィーユ鍋やすき焼きなど、お肉がメインのお鍋もいくつか上がりました。私も大好きです!

好きなごはんと環境にも健康にもやさしいことを両立するのは難しいのでしょうか?

毎日のごはん、おいしい!たのしい!をあきらめない!

実は、地球飯には忘れてはいけないもう1つのポイントがあります!

それは、地球飯を生活に取り入れ、それを無理なく続けていくために大切な「わたしのきもち」です。ごはんとともにあるくらしや習慣、文化と合わせて考えます。

 

「お鍋は歴史が古いんですが、文化と文化が出会うことで、新しいアイデアがどんどん生まれていく。これもお鍋の特徴だと思う。」とコウさんは言います。

 

まさにそのお鍋の特徴をいかし、環境と健康とみなさんの気持ちを組み合わせて、新しいお鍋を考えていきましょう!

 

今回は、「わたしのきもち」を、お鍋やごはんを食べるときのたのしかった「思い出」から考えました。

コウさんは、ごはんの楽しかった思い出が、今のお仕事にもつながっているそうです。

「私の母は韓国から大阪にやってきて生活を始めたので、地域の方にどうしたら受け入れてもらえるかと考えていたみたいなんですね。そこで、母は地域の人をご飯に誘いました。一人暮らしをしているおじいちゃん、おばあちゃんに“ご飯食べに来てください”と声かけたり、たまたま家の前の通っただけの知らない人も呼んだりするんですよ。近所の人や知らない人との晩ごはんがたのしかったというのが子どもの頃の一番の思い出。ごはんがあると世代、性別関係なく、こんなに仲良くなれるんだっていう経験をしたのが、僕の今の仕事につながる原体験。」

 

林さんは、実は小さいときはお鍋料理があまり好きではなかったそうです。どうして好きになったのか、振り返ってお話しいただきました。

「お鍋は、野菜も多いし、すでに出来上がっていることが多かったので、子どもの頃はあまり好きではありませんでした。でも、具材を自分で入れたり、つくりながらみんなで鍋を囲むような体験ができるようになってから、とてもたのしい思い出となっています。」

 

イベントには、小学生も参加してくれたのですが、お鍋料理はあまりお好きではないようでした。林さんのおっしゃるように、ごはんをつくるところから、お鍋のたのしさを知ってもらえたら嬉しいですね。

これまでの食事の思い出をお話しするコウさんと林さん

会場のお客さんも、お鍋料理から思い出されることがあったようです。その一部をご紹介します。

  • 初めての海外でベトナムにいきました。小さい一人分の土鍋で炊いたご飯がものすごくおいしかったことを久々に思い出した。
  •  いつもは料理をしない父が、鍋の時は張り切って仕切ってくれた。
  • 苦手なネギを、大好きな祖父がおいしそうに食べていて、頑張って食べるうちに大好物になった。

改めてお鍋を振り返ると、料理のメインになりがちなお肉以外の食材にも目を向けることができそうです。もともとお鍋はたくさんの量のお野菜を食べることができるので、他の料理と比べると地球飯にしやすいかもしれません。

もっと地球飯に近づけるとき、どんなお野菜をお鍋に使うことができるか、お二人に聞いてみました。

「ほうれん草がおすすめ。常夜鍋(じょうやなべ)がすきでよく食べます。最近、ほうれん草はあくも少なくなってきていますので、たっぷり召し上がっていただいてもいいと思いますね。」と林さん。

 

またコウさんからは意外な食材の名前があがりました。

「カリフラワー。ネパールに行ったときに食べたカリフラワーのおかずがまあ、おいしくて! カリフラワーにタマネギと、ジャガイモなどを入れてスパイスで煮ます。その発想をまねて僕は鍋に入れるんです。スパイシーな味とあうので、カレー鍋にカリフラワーを入れても、すごくおいしいですね。」

 

日々のごはんでは、つくって食べることにいっぱいいっぱいで、なかなかアレンジしてみたり、新しい食材を使ってみたりすることは難しいかもしれません。ですが、とてもたのしそうにごはんのお話をしてくださるお二人を見ていると、自分もやってみたい!という気持ちがこみ上げてきました。

もっとたくさんお話をうかがいたかったのですが、あっという間にお時間が来てしまいました。

 

とても楽しそうにごはんのお話をするコウさんと林さん

最後にお二人から感想をいただきました。

「日々の意識を少し変えるだけで、環境へのアプローチの仕方って変わってくると思います。ぜひ、今日ここで聞いた話をお友達やご家族にしてあげていただけたらと思います。無理のない範囲で、日々のごはんづくりも頑張ってもらえたらなと思います。」(コウさん)

 

「最近はお料理をする方が少なくなってきているようですが、お鍋は失敗がないからこそチャレンジできる。好きな具材をその時々に合わせて使えるところが良さだと感じました。私もこれから、新しい食材にチャレンジしてみたいと思います。」(林さん)

 

実は日々のごはんは、私たちの気が付かないところで、体や自然環境に影響を及ぼしています。今の在り方を少しでも変えていきたいけど、毎日続けるごはんなので、ぜひたのしみも忘れずに。

みなさんなりの新しいかたちを考えて、これからも地球飯に挑戦してみてほしいと思います!

 

これからお鍋を食べる、つくる方はぜひ参考にしてみてください!



Author
執筆: 片岡 万柚子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。学校団体を対象とした企画やコンテンツの開発も担当。最近は、「対話」「生物」「自然環境」に関する活動や企画に取り組む。

【プロフィル】
大学で初めて土を基盤とした生態系のすごさ、そこで暮らす生き物たちの面白さを知り「こんな身近に全く知らない世界が広がっていたのか!」という感動から、土壌動物の世界にハマりました。当時の感動を、多くの人々にも伝えたいと思い、未来館へ。今は、その感動だけでなく、身近な自然の魅力を共有したり、楽しく学びを得られる仕組みを考えたりしています!ぜひ、一緒におもしろがりながら、身近な感動を発見しましょう!

【分野・キーワード】
土壌生物学、生態学、自然環境、生物