少子高齢化に加えて人手不足が産業界の大きな足かせになる中、「日本のマテリアルハンドリング(マテハン)は世界に誇れる」と強調する下代氏。配送センターや自動車工場、最先端の半導体工場、空港などで、省力化・省人化を進めるダイフクのマテハンシステムはその可能性を高めている。具体的には新しい領域への展開だ。下代氏は「モノを動かす技術で食や環境などの新たな領域でも社会課題の解決に貢献できる」と同社の強みを語る。マテハンの今後の可能性とは。また下代氏が見据える2030年のダイフクの姿とは。
車の電動化でマテハンも変わる
─ 人手不足が進む中、自動化のニーズは強まっています。物流業務を合理化するマテハンシステムは各産業界の変化にどのように対応していますか?
下代 自動車業界ではカーボンニュートラルの実現に向けて電動化が進んでいます。
足元ではハイブリッド車(HEV)が好調ですが、電動化が進み、電気自動車(EV)の生産が増加する一方、従来のガソリン車の需要もある状況下では、混流生産が主流となってきます。それを受けて国内外の自動車メーカーは、生産ラインの更新を進めています。
電動化にはバッテリー(電池)が必要です。今までは車のボディを天井から吊るして搬送していましたが、バッテリーは重量が非常に重いので、今後は床面を走行するAGV(無人搬送車)で車体を載せてけん引するといったフロアタイプの搬送システムなどが求められます。
電動化にはHEVも含まれます。世界的にEVの販売が鈍化したことを受け、今は欧州や中国でもHEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を作ろうという動きもあります。
こういった揺り戻しのような状況が起こっても、我々は既存の生産ラインをバッテリーの重さに対応できるように改造するなど、顧客ニーズに合わせた対応が行えます。
─ 柔軟な対応ができることも強みになっていると。
下代 そうですね。空港でも、今は世界中で旅客数が戻ってきています。そこで当社では、空港における人手不足への対応や作業者の負荷軽減などの需要に対して、自動で手荷物の預け入れができるシステムなどを世界各地の空港に納入してきました。
今後は航空コンテナへの詰め込みを自動で行うシステムなど、我々はさらに一歩進めた完全自動化を目指して取り組んでいます。
2030年のありたい姿
─ 会社としての姿も変わっていきますね。
下代 そう思っています。2024年問題などを含め、働き方改革で今後ますます労働者の数は少なくなっていくでしょう。
当社は今年5月に2030年という長期を見据えて、ありたい姿を定めた長期ビジョン「Driving Innovative Impact 2030」を策定しました。経済価値から見た30年のありたい姿としては、次のステージとして連結売上高1兆円、営業利益率12.5%、ROE(自己資本利益率)13%を掲げました。
前中期経営計画ではCO2の削減やSDGsなどのサステナブルなターゲットを掲げた「サステナビリティアクションプラン」を策定し、3カ年にわたって活動を推進してきました。
今回は、このサステナビリティアクションプランを中期経営計画に統合し、中期経営計画の枠組みの中で重要課題として取り組みを推進していきます。
─ その長期ビジョンを貫く心とは何ですか。
下代 我々は「モノを動かす技術」で物流や生産現場などのお客さまが抱える課題の解決を通じて、社会インフラを支えながら企業価値を向上させてきました。我々の仕事を通じ、例えば省エネの製品を作って納めることでCO2排出量の低減に寄与し、自動化により省人化や省力化が図られてきたわけです。
これは我々が製品を納入させていただくことによって人手不足の解消に寄与するだけでなく、持続可能な社会の実現に貢献しているということでもあるのです。そういった姿を意識し、30年のありたい姿の社会価値と経済価値をミックスした統合目標を定めているのです。
─ 日本のマテハンは世界に冠たるものだと?
下代 私はそう思います。中国などでAMR(自律走行搬送ロボット)などが台頭してきていますが、長い目で見ると、良いものが残る。日本のマテハンシステムは、そういった歴史の中でも残り続けてきました。一概に評価はできませんが、私は日本のマテハンシステムは世界に誇れると思っていますし、今後も進化していけると思います。
特に我々の製品は、そのほとんどが自社で開発・生産したものであり、自信を持ってお客さまにお届けしています。また、それらを長く使っていただきながら、改造やリニューアルなどのメンテナンス対応をしっかりしていくという流れの中で、我々はお客さまから信頼を得てきたという歴史がありますからね。
標準化を進める欧州の文化
─ 下代さんが入社して四十数年。この間、会社はずいぶん変化してきましたが、いまどう受け止めていますか。
下代 工場や物流センターなどで重いものを運んだり、生産ラインで作業者が立ったり座ったりしながら、1日中、同じ作業を行っている姿を見てきました。
我々のマテハンの原点は、人が重いものを持って運ぶといった重労働や単純反復作業からの解放です。自動化技術を活用すれば、新たな価値を生み出すことができるだろうと。
時代の流れの中でこれまでは、機械の購入費と人件費とを比べた場合には、安い方が選択されてきました。しかし、今は比べようにも人手不足で肝心の「人」がいません。人件費が高いかどうかという話ではなくなっているのです。
私は欧州に1年ほど赴任していたことがあるのですが、欧州のお客さまにこんなことを提案したことがあります。自動化で効率アップするものは自動化し、費用対効果も考え、まだ人手ですべき作業は人で対応しましょうと。すると、担当者からは「なぜ、そこを人手でやるのか。あなたの会社には技術力がないのか」と言われました。
─ 要は、自動化の追求を徹底していたのですね。
下代 はい。欧州は、それだけ機械化や自動化にこだわりがあるのでしょうね。欧州ではパレットやコンテナの規格が定められており、欧州のどの国に行っても同じサイズしかありません。ということは、機械化も容易ですし、標準化も図ることがきます。標準化できれば効率も上がるわけです。
一方で日本はお客さまのことを考えます。お客さまの商品にピッタリ合う専用の箱を用意すると、そのお客さまからは喜ばれます。おもてなしと言えばおもてなしだと思います。
しかし他方でそれが標準化や共通化を阻み、汎用性の無いものをいっぱい作るようになってしまいました。それが結果として生産性の向上の課題になっているわけです。
ですから、そういった規格の標準化は欧州を見習うべきことだと思います。
新たに「食」や「環境」にも
─ そういったことを踏まえた上で、日本のマテハンの技術を今後どのような領域で展開していこうと考えていますか。
下代 食や環境などです。食に関しては、例えばこれまでも農業協同組合さんの選果場などに仕分けや保管の設備として当社のマテハンシステムを納入してきましたが、省力化・省人化の取り組みをもう一段踏み込んでいこうと考えています。
今後、国内では高齢化が進み、農業の担い手も少なくなってしまいます。こういった社会課題の解決に貢献していく必要があるのです。
─ 環境の領域では?
下代 例えば、当社のマザー工場のある滋賀県で、地域の方々によるボランティア団体と連携して環境省が21年に発行した「河川ごみ調査参考資料集」に基づくプラスチックごみを含むマクロ漂流ごみの調査・回収を実施することになりました。
具体的には全国初の重要文化的景観に指定され、伝統的な木造家屋が立ち並ぶ水路を舟で巡る「水郷めぐり」で有名な近江八幡市の北之庄沢地区において、当社のモノを動かす技術の活用も含めて、漂流ごみ回収作業の負荷軽減などの検討を進めています。
─ ごみの回収作業は人手がかかり、労力も大きいです。
下代 ええ。モノを動かす技術を活用することで、有効性のある解決策の具現化もできるでしょうし、それと同時に当社にとっては持続可能な事業へと転換していきたいと思っています。
また、今後は廃棄物などがさらに深刻化することが予想されるため、当社のノウハウを活かして課題解決に貢献していきます。
長期的な視点で当社も新たな領域でモノを動かす技術を広げ、新たな価値を提供していきたいと思っています。(了)