《心理カウンセラー》原動力代表・矢部裕貴の「不登校の鍵は母親の意識改革!」

急増する不登校の児童生徒

―以前から不登校は大きな社会問題として認識されてきました。親子問題専門のカウンセラーでもある矢部さんの現状認識を聞かせてください。

 矢部 私は大学を卒業した後、学習塾で講師を20年間務めてきました。その間、教育業界に身を置いてきたわけです。現在は「お母さんの学校」という親子向けのオンラインのコミュニティを運営しています。そのコミュニティを通じて全国各地の母親の支援をさせてもらっており、私がファシリテーターを務めるサロンを行っています。

 そこで母親たちが直面している困り事やニーズを聞くのですが、ここ5年ほどで不登校に関するご相談が急増しています。これは私たちが意図して、そういった子どもを持つ母親を呼んだわけではありません。悩みを聞く中で不登校を打ち明ける母親がすごく増えたのです。

 おっしゃる通り、昔から不登校はありました。しかし、あまり表に出てこなかった部分があります。なぜなら、母親が不登校に関する悩みをずっと1人で抱え込んでいたからです。そういった悩みを打ち明けることができる人が傍にいないのです。

─核家族化も影響しているということですね。

 矢部 そう思います。もし自分の子どもが不登校であることを打ち明ければ、他から批判されるかもしれないと怯えてしまっているのです。その結果、悩みを1人で抱えつつ、自分の親や親戚にアドバイスを求めるわけですが、家族や親戚では環境が似通っているため、悩みを悩みで共感して終わってしまうと。何も解決できないわけです。

 サロンで不登校の悩みがあまりにも多く聞かれるようになったので、もっと不登校の根本的な原因を探る必要があると思いました。そこで今年の5月に開催したのが「不登校フェス2024~不登校でも大丈夫~」というオンラインイベントを開催しました。すると申し込みが1万人を超えたのです。

─それだけ同じ悩みを抱えている人がいるのだと。

 矢部 そういうことだと思います。文部科学省によれば、令和4年度の国立、公立、私立の小・中学校の不登校児童生徒数が約30万件と過去最多になっています。国の定義で30万人ということですから、基本的には教室で過ごしても授業に参加する時間が少ない「部分登校」や登校しても保健室にいたり、特定の授業には参加しても主として保健室にいる「保健室登校」といった「隠れ不登校」を入れると、さらにその数は約3倍になるとも言われています。

悩みを打ち明けられない 「孤独感」

─どういった視点で解決に動き出したのですか。

 矢部 私はこれまで心のケアに取り組んできました。ですから、母親の心の面での回復や方向転換をするお手伝いができるのではないかと。そして、親がどのように子どもに関わるかで、子どもが本音の自分を取り戻していくのか。あるいは、生きやすくなっていくのか。そういったテーマで母親のカウンセリングを行っています。今までで1万5000人以上の母親のカウンセリングを行ってきました。

─一義的には親の役割が大きいと思うのですが。

 矢部 そうですね。ただ、親が何に困っているのかというと、昭和の時代は子どもの世話を地域全体で行っていたのですが、今は孤立化してしまっています。それが一番の問題だと思います。

─つながりを欠いているということですか。

 矢部 そうです。9月に出版した私の書籍『学校に行けない子どもの気持ちと向き合う本』でも使った言葉ですが、私は今の母親は「孤独感」を感じている人が多いと思うのです。人が周りにいても独りぼっちでいるような感覚を指します。そういった孤独感を感じている方が非常に多いのです。そのことは地域の自治会などでのつながりが非常に希薄になっているということでもあると思います。

 かつては地元のお祭りなどがあって、近所の人たちと一緒に催しに取り組むことによって、つながっていたのですが、今はお祭りもなくなっています。つながりがどんどん断たれてしまっており、自分が社会に入れていないような感覚を持っている母親が多くなっているのです。

─具体的な取り組みとは。

 矢部 私自身は滋賀県の東近江市という人口約11万人の街を拠点にして活動を行っています。私の地元では、まだお祭りなども行っていますので、そういった催しを活用して地元のつながりを深める活動をしています。ただ、若い世代がどんどんいなくなっているのも事実です。特に40~50代といった若年層とシニア世代の間の世代が特に少なくなっています。

─学校の教師はどのような環境にあるのですか。

 矢部 学校の先生の苦しみも聞いています。やはり先生も悩みを抱えているのです。今までであれば時間外労働でも、どんどん自分から積極的に子どもと接していく傾向にありました。授業時間中の先生たちは教務が決まっているので、どうしても子どもに費やす時間が思ったより取れなかったわけです。

 そこで放課後の時間や休み時間といった授業時間以外の時間を使って子どもと接することを大事にしていた先生が多かった。ところが今は働き方改革などで、時間外労働があまりできない環境になっているのです。子どもたちと接する時間が取れないという現場の声はよく聞きます。

 一方で、その先生が不登校になってしまうケースもあります。気持ちの面で先生が病んでしまうのです。学校として対応できることや先生としてできること、親としてできること、それぞれが限界値を迎えているように感じます。一部では、責任の押しつけ合いもありますし、学校によっても対応が違います。

オンラインでサロンを行う意義

─どこから解決の糸口を探れば良いと考えますか。

 矢部 私は民間の1企業の人間です。そういった立場にある私ができることとして、先ほど申し上げたインターネット上でのつながりを深めることではないかと。リアルで面と向き合わないという不利益も感じますが、一方でネットだからこそ気楽につながれるという面もあります。  最近ですと、オンライン会議システムのZoomなどを使ったオンラインのサロンを開催したりしているのですが、対面の場合では、どうしても現場に来て顔を合わせなければなりません。それを怖がる人もいる。孤独感が大きいからです。

 ですから、最初は顔を出さずに聞いているだけの母親もいます。しかし回数を重ねていくうちに我々に対する信頼感が醸成されて、名前を公表したり、顔を出したりするのです。すると、徐々に互いの信頼関係を築いていくようになります。

─しかもオンラインですから、全国各地の母親同士がつながることにもなりますね。

 矢部 はい。例えば、沖縄のある島の母親が引っ越して来ても地域の交流を持てなかったと。それでオンラインで我々のサロンに参加してみたら、そこで同じ沖縄の方と出会い、お互いの悩みを打ち明け合ってつながったというケースもありました。そこはネットの利点ですね。

─「つなぐ」ことが大事ですね。こういった取り組みをどのように広げているのですか。

 矢部 やはり不登校の根本的な原因には自己肯定感の欠如があるように思うのです。そこで自己肯定感を育むために、子どもの才能を伸ばしたい母親のための「お母さん心理学」というものを開発し、それを浸透させる活動を行っています。

「お母さん心理学コーチ」という資格を設け、77人を認定しています。彼女たちが全国の保育園や小学校などとも連携しているのです。

─「お母さん心理学」の骨子は何ですか。

 矢部 そもそも母親はどのようなことに気を配ればいいか学ぶ機会もないままに突然、母親になってしまいます。その結果、自分独自の母親像をつくってしまっているのです。そのため、子育てでどうしていいか分からなくなってしまうと、ネットで検索するしかない。もちろん、その情報が正しいとは限りません。結果として自分のやり方が間違っており、自分はダメだと自己否定してしまうのです。

 母親が自分はダメな母親だと思ってしまうと、それは子どもにも伝播します。お母さんから「私はダメな母親だから」と聞かされた子どもは自分もダメな子どもだと思ってしまう。私のカウンセリングでも「私の子どもが自信がないんです」という話をする母親は自分も自信がないと話すケースが多いのです。

 お母さん心理学では、プラスの言葉を投げかけていくことで、子ども自身が良いイメージを持てるようにしていくというアプローチをとっています。実は裏の目的として、投げかける言葉は全て自分に返ってくる言葉になっています。ですから、母親自身の自己肯定感も上がっていくというストーリーの心理学になっているのです。ですから、使えば使うほど、実践すればするほど、子どもも変化し、自分も幸せになっていくのです。

母親の自信回復が第一歩

─事例はありますか。

 矢部 あるサロンで4人の子どものうち3人が不登校という母親がいました。母親のカウンセリングをすると、幼少期の父親との関係がすごく悪かったことが分かりました。そこで私は、あえてお父さんという存在と向き合ってもらいました。お父さんは本当に悪の存在だったのか。よく思い出してもらったのです。

 実はそれだけでも自信が回復するのです。まだその因果関係はデータとして説明できないのですが、母親の自信が回復することによって、子どもが突然学校に行き出したのです。今では4人中3人が学校に行くようになりました。つまり、2人の子どもが回復したのです。

─その母親はお父さんに怒られていたのですか。

 矢部 厳しく当たられていたという印象が強かったそうです。理不尽に自分の思いをないがしろにされて怒られたと。しかも、お母さんにも守ってもらえなかったとも言っていました。

 そこで、もっとこれを深掘りして思い出してもらいます。「お父さんにどこかに連れていってもらった経験はありませんか」と。それを書き出してもらうと次々と出てくる。すると、その母親は「こんなことをしてくれていたんだなあ」と父親への印象が変わっていくのです。

 今の世の中では、欠点やマイナスがフォーカスされてしまいます。「他とは違う」という言葉がその代名詞のようになっていますが、それが自己否定につながってしまっている。しかし、他とは違うということは個性です。そのように認識するだけでも少なくとも本人は変わります。

 母親や父親の認識が変われば、子どもへの声かけも変わってくるものです。「わがままだ」と言うよりは「自己主張があるね」と言われた方が自らの主張ができる子どもに育っていくのです。

 誰にでも持っている才能という力があるものです。そして、そういった才能は自分がワクワクする、やりたいという情熱から湧き出てきます。その原動力となるものが自己肯定感なのです。