LINEヤフーが11月月26日に開催した「LINEヤフー BIZ Conference 2024」では同社の「LINE通知メッセージ」や「LINEミニアプリ」などの大型アップデートの発表や「LINE公式アカウント」を中心とした新しいビジネス展開「Business Profile」を含む新サービスのロードマップの公開などが行われている。イベントでは、LINEヤフーを活用したマーケティングに関する多くのセッションが開催され、中でも同社サービスを活用し大きな効果をあげているアサヒビールの事例を紹介する「アサヒビールとLINEヤフーが考える、消費財メーカーにおけるマスマーケティングとCRMの『真の連携』とは」では、アサヒビールの購買データなどの1st partyデータとLINEを活用したコミュニケーション戦略の全容が公開された。その内容についてレポートしたい。
「LINEヤフー BIZ Conference 2024」で発表されたCONNECT ONE構想の新たな展開とロードマップ
「LINEヤフー BIZ Conference 2024」は、LINEヤフーの最新情報や広告・マーケティング事業の動向などを紹介するイベント。今回は同社が進める「CONNECT ONE構想」の新たな展開としてLINE公式アカウントの機能を向上させる「LINE通知メッセージ」と「LINEミニアプリ」の大幅アップデート、LINEヤフーで展開しているサービスを集約した情報ポータル「Business Profile」の発表などが行われた。同イベントでは、LINEヤフー 上級執行役員 マーケティングソリューションカンパニー カンバニーCEO 池端 由基氏によるプレゼンテーションが行われ、その詳細が公開された。
発表では「LINE公式アカウント」を中心にLINEヤフーのビジネスソリューションを連携するプラットフォーム「CONNECT ONE」構想の進捗、新サービスの展開とそのロードマップについての説明があった。特に今回の「LINE通知メッセージ」と「LINEミニアプリ」の大型アップデートと「Business Profile」などの新サービスはLINEを活用したマーケティング展開を行う企業にとって重要な発表となった。
同日、イベント内で既に同社のサービスを有効に活用したコミュニケーション戦略を実践しているアサヒビールのマーケティング戦略に関するセッション「アサヒビールとLINEヤフーが考える、消費財メーカーにおけるマスマーケティングとCRMの『真の連携』」が開催された。アサヒビールは2024年4月、宣伝部とデジタルマーケティング部を合併して「コミュニケーションデザイン部」を新設し、LINEヤフーを活用した更にコミュニケーション戦略に磨きをかけたフルファネルのマーケティングを展開している。今回のセッションでその内容が公開された。
アサヒビールの旧宣伝部とデジタルマーケティング部がLINEヤフーと今まで行ってきたマーケティング施策とは
セッションには、アサヒビール コミュニケーションデザイン部 望月 省二氏とLINEヤフー ビジネスデザイン統括本部 第一ビジネスコンサルティング本部 本部長 兼 データマーケティング本部 本部長 江中 俊輔氏が登壇。両社が行ってきたマーケティング施策と新たに創設された「コミュニケーションデザイン部」と今後の展望について対談方式で発表が行われた。
望月氏は、アサヒビールの宣伝部で2005年から2023年までインサイトを追求したコンテンツ開発とメディア展開の最適化を担当し、2024年4月に新設された「コミュニケーションデザイン部」では、広告宣伝領域からCRM領域まで全体を担当している。
江中氏は営業として広告代理店及び業界の広告主を担当してきた。2022年に営業推進本部長に就任し営業戦略/組織設計を担当、LINEヤフー社となった2023年からは広告主の担当とデータ活用の営業領域を担当している。
旧宣伝部では、予約型の「Yahoo!広告 ディスプレイ広告」において、SP版ブランドパネル、PC版ブランドパネル、スポーツナビへの大型出稿を行ってきた。データ活用に関しては、CCC MK HOLDINGSの有効ID数約1.3億人いるといわれる「V会員」と提携店舗数約16万店舗といわれる「Vポイン」データとYahoo!の情報を組み合わせて活用し、購買者分析をもとにしたターゲット配信と購買リフト検証による購買データ分析の高速PDCAを実施。ゼロカロリー飲料「Asahi ZERO」と「Asahi DRY ZERO」の購買層の分析として「Asahi ZERO」の購買層が情報通でお酒にこだわりがある高年収サラリーマン層で、「Asahi DRY ZERO」の購買層がアウトドアや競馬などに関心が高く、お酒で太ることを気にし始めた層といった結果を得ている。
これらの分析のため江中氏は、1年間で約450件のレポート提出を行っており「同社にとっても最多規模の取り組みだった」と当時のことを語った。それに対して望月氏は「この取り組みはまさにこのターゲティング精度向上のためで、態度変容の確率を上げるための取り組み」と語り、常に新鮮なデータを必要とする同社にとって重要な試みだったことに言及している。その結果としてデータの精度が大きく向上したことを語った。
もう一方の旧デジタルマーケティング部では、LINEの「LINE公式アカウント」を大きく活用し、様々な商品、店頭、施設などの顧客接点でLINEへの入口を作成、データを利活用したコミュニケーション戦略を実行してきた。キャンペーン参加状況、メッセージ反応状況、飲食店利用状況、アンケート結果などをアサヒビールCDP(Customer Data Platform)でデータ蓄積·分析を行い、AIを活用して「LINE公式アカウント」でスーパードライ愛飲層、ビール類飲用層にリーチしコミュニケーションを行ってきた。
LINEの圧倒的な規模の価値とそれを活用した魅力的なコミュニケーション分析、そのデータを活用した最適なコミュニケーションの実行など顧客との関係構築に大きく貢献しており、AIに関してもキャンペーンなどのデジタル施策の実行にあたって参加者のターゲティング確率を高めるために活用しているとその利用法についてコメントしているが、望月氏は、LINEを活用した顧客接点における新しい事例として「LINE公式アカウント」を活用した企画「DRY CRYSTAL パックマン アサヒビールLINE公式アカウント」の説明を行った。
「DRY CRYSTAL」の現物の缶をアサヒビール「LINE公式アカウント」を通じてスマホでスキャンすることでアプリが立ち上がり、独自仕様のパックマンを楽しむことができるというものでビールを飲むタイミングを狙った顧客体験の模索より生まれている。結果としても友だち規模は現在の総数2,095万人に及び更に順調に拡大し売上にも大きく貢献しているという。
時代背景に合わせて組織を合併、コミュニケーションデザイン部新設で一貫性
このような試みが行われる一方で宣伝部領域とデジタルマーケティング部領域の目的の違いや、メディアの一方通行から双方向への変化、モノ中心から価値の創造と共有への価値観の変化、広告コミュニケーション環境の変化による課題の噴出などに対応するため2つの部を統合し「コミュニケーションデザイン部」を新設することとなった。同部署は「顧客とのあらゆる接点におけるコミュニケーション開発·推進」と「広告に留まらない消費者との新たなコミュニケーションのテストモデル開発·推進」をミッションに掲げている。その内容は、ユーザーの購買プロセス全体を俯瞰し顧客と接点であるコミュニケーションの流れを開発していくフルファネル(full funnel:顧客の購入までの行動を図式化した流れをfunnel(漏斗)に見立てて名づけられた)の思想をもとに広告宣伝領域からCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)領域まで一貫性のあるコミュニケーション施策を展開していくことだという。
組織の課題として望月氏は、一貫性のある施策を行うにあたってはその意義から一人の人間が行うことがベストだが、それがなかなか難しいとその難易度の高さを語っている。会場では同社の展開するフルファネル戦略ついて「アサヒスタイルフリー」の事例を紹介。同事例においては、購買者分析から戦略ターゲット設計を行いYahoo!広告でのターゲティング配信、次いでキャンペーン参加時に友だち追加施策、戦略ターゲットごとのメッセージ配信、そして最後に経路別購買検証を行っている。
CRM領域のデータを活用して広告宣伝領域の広告配信の効率化を狙った「Talk Head View Custom」の事例も紹介された。「Talk Head View」は、LINEのトークリスト最上部に静止画と動画もしくは静止画を掲載できるサービスで、アサヒビールの豊富な1st partyデータとLINEヤフーの媒体データを組み合わせ、セグメント化してターゲティングを作成しLINEの「Talk Head View Custom」でキャンペーンの広告宣伝を行うことで高い効果が期待できるのでは?という仮説のもと行われている。
結果としてキャンペーンの参加率はYahoo! JAPAN 共通オーディエンスの購買意向ターゲティングやビジネスマネージャー連携でのYahoo!検索×Yahoo!ショッピングより、ビジネスマネージャー連携での1st partyデータとLINEのデータを掛け合わせたデータの方が好成績を納めているそうだ。この結果について望月氏は「よい結果は得られたがセグメントする領域が狭くなればなるほどリーチできるボリュームが減る懸念もある」と更なる解析の必要性と「そういった点を注意しつつ今後も1st partyデータとプラットフォーマーが提供するデータを組み合わせて活用していきたい」とその有用性を語った。
アサヒビールが構想するフルファネル戦略とLINEヤフーサイドの今後の展開
今後、アサヒビールが構想するフルファネル戦略については、1st partyデータとして商品・店頭・施設のデータ、新規データとして流通·決済領域より購買・ポイントのデータ、メディア·広告・通信キャリアなどから行動と属性情報データなどからのデータ収集と蓄積し、そのデータをもとにしたアサヒビールCDP(Customer Data Platform)と外部企業のDCR(Data Clean Room:顧客データの匿名化を行いマーケティング活用可能とする仕組み)によるデータ分析。最後にファネルに応じた最適なコミュニケーション施策の実行を行うというものだ。望月氏は、更なるデータ精度向上のためLINEヤフーの「CONNECT ONE」構想によるYahoo!とLINEの更なるデータ連携について期待したいと述べる。