人体への健康影響が懸念される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」が全国で検出されていることを受け、環境省と国土交通省は11月29日、全国の水道事業者が実施した水質検査の調査結果を公表した。対象をPFASに特化し、小規模事業者にも対象を拡大した大規模調査は初めて。2024年度(9月末時点)は、国の暫定目標値を超えるPFASが検出された水道事業はなかったが、検査をした全国1745事業の約2割に相当する332事業でPFASが検出された。

今回の環境、国土交通両省の調査は今年5月下旬から9月下旬に実施された。給水人口が5000人超の上水道や101~5000人の簡易水道など全国の3755水道事業を対象に、2020~24年度の浄水場の出口水や給水栓から出るPFAS検出の有無や検出量について各事業担当者から回答を求めた。

現在のPFASの国の暫定目標値は、代表的物質のPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)。3755水道事業中3595事業から回答があったが、24年度内に検査を実施したのは1745事業だった。

調査結果のまとめによると、2024年度内で富山県を除く全国46都道府県の332水道事業でPFASが検出されていた。「50ナノグラム超え」はなかったが、愛知県の岩倉市水道事業、長崎県の新上五島町水道事業、北海道のむかわ町穂別簡易水道事業で47~49ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出されていた。

環境省によると、暫定目標値ができた2020年度は調査した466水道事業のうち11事業の水道水などで暫定目標値超えがあったが、その後年々減少していた。20~23年度に暫定目標値超えがあった12都府県の14事業については今回の調査では全てこの値を下回った。 過去最高値は22年度の岡山県吉備中央町の水道事業で目標値の28倍に当たる1400ナノグラムだったが、今回は検出されなかったという。同町によると、11月25日から公費による全国初の住民の血液検査を行った。

同省は「全国の水道の給水人口に対し、目標値以下の水質が確認されたのは98.2%」などと水道水質の安全性を強調している。

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    2020年度から24年度までのPFOS、PFOAの検出状況(環境省提供)

PFASは炭素とフッ素がつながった有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。4730種類以上、定義によっては1万種類以上あるとされる。耐熱や水や油をはじくなどの性質があり、フライパンなどのコーティングや食品包装、衣類の防水加工など身近な製品のほか、半導体や自動車の製造過程などで使われてきた。

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    PFASの全体像を示す環境省資料の図(環境省提供)

PFASのうちPFOS、PFOAといった代表的物質について2009年以降、動物実験で肝臓機能や体重減少などの影響のほか、人体に対してもコレステロール値の上昇や発がん性への影響の可能性を示す報告が出された。

このため国際的な規制が進み、日本国内では代表物質であるPFOSが2010年、PFOAが21年に輸入や製造が原則禁止された。しかし、これらの物質は自然環境では分解されにくく、過去に廃棄された分などが残留し、全国の河川や地下水、井戸水などから相次いで検出されて社会問題化している。

現在は日本の暫定目標値は、基準を超えても水質改善などの対応は努力義務にとどまる。海外では規制強化の流れがあり、米国は今年4月に代表的2物質の飲料水の規制値について、それぞれ1リットル当たり4ナノグラムと世界一厳しい基準を設定。ドイツは2028年に代表的2物質を含む4種類のPFAS合計で同20ナノグラムにする予定で、カナダやオーストラリアなども規制強化の方針を明らかにしている。

このため専門家からは日本国内でも海外の動向に合わせた基準の厳格化を求める声が聞かれる。こうした指摘を受け、環境省は現在、国の暫定目標値を超えた場合に水質改善などの対応を義務付ける水道法上の「水質基準」の対象に引き上げる方向で検討している。

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    2020年度から24年度までのPFOS、PFOAの暫定目標値を超えた事業数のグラフ。検査対象事業の数は毎年異なる(環境省提供)

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    国のPFAS対策の中核を担う環境省が入った中央合同庁舎(東京都千代田区)

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