MODEは11月22日、11月18日が「土木の日」であることにちなみ、土木業界関係者に向けて「土木の日記念 土木DXセミナー」を都内で開催した。このセミナーでは、業界有識者による講演や最前線で活躍する企業の事例を通じ、人材不足・高齢化・働き方改革が進まないという建設業界の課題に対する解決策につながる新技術について紹介した。
国交省が進めるi-Constructionとは
最初は、「i-Construction 2.0 ~動き始めた建設現場の省人化~」と題して、国土交通省 大臣官房参事官 イノベーション担当の森下博之氏が講演を行った。
国土交通省では、建設現場の生産性向上や業務、組織、プロセス、文化・風土のほか、働き方変革を目的として、i-Constructionおよびインフラ分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。i-Constructionは、ICTの活用(ICT土工)等の施策を建設現場に導入することによって、全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みで、2016年からスタートした。今年の4月には、建設現場の省人化に取り組むため、「i-Construction 2.0」が新たに発表された。
森下氏によれば、同省が「i-Construction 2.0」を打ち出した背景には、労働人口の減少があるという。
「生産年齢人口が2040年には、今より2割減少するという統計データが出ています。現在は各地で災害が起こっても、迅速に対応できていますが、果たしてこういう状況が維持できるのかという危機感があります。インフラが老朽化しており、上水道の施設管理にも危機感を感じています」(森下氏)
そのため、「i-Construction 2.0」では、技術を使って生産性を上げ、人を減らすということにターゲットを絞って実施していくという。
「今よりも少ない人数になっても、今と同じ、または今以上のインフラサービスを提供していくというのがわれわれの使命だと思って、課題を克服していきたいと思っています」(森下氏)
i-Constructionでは、2025年までに2割程度の生産性を上げることを目標にしており、ドローンとICT建設機械を使ったICT施工に注力してきた。「ICT施工というのは非常に効果が高く、作業スピードが非常に上がります。測量も含めて最後のデータ納品まで、今までのやり方と比べると、3割ぐらいスピードが上がるということです」(森下氏)
現在、国土交通省が発注する土木工事の9割近くがICT施工に置き換わったという。一方、ICT施工は大きな会社には浸透しているが、今後は小さな会社にも広げていく必要がある。
i-Construction 2.0では省人化という新しい指標を作り、2040年度までに、建設現場の人数を少なくとも3割減らすため、生産性を1.5倍以上に向上すること目指しているという。
そのために、建設現場のオートメーション化を新たな施策として打ち出した。国交省では、次の3つのオートメーション化を旗印として、i-Construction 2.0を進めていく計画だ。
- ICT施工にとどまらず、建設機械が自動で動いているような現場にする
- データ連携のオートメーション化で、BIM/CIM(※)をもっと使いこなしていく
- 施工管理のオートメーション化で、現場から離れていても、いろいろな現場で仕事をやっていけるようにする
※BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)
計画、調査、設計段階から3次元モデルを導入することにより、その後の施工、維持管理の各段階においても3次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図ることを目的としている。
最新のICTを活用して、建設生産システムの計画、調査、設計、施工、管理の各段階において情報を共有することにより、効率的で質の高い建設生産・管理システムを構築。それにより、ミスや手戻りの大幅な減少、単純作業の軽減、工程短縮等の施工現場の安全性向上、事業効率及び経済効果に加え、副次的なものとしてよりよいインフラの整備・維持管理による国民生活の向上、建設業界に従事する人のモチベーションアップ、充実感等の心の豊かさの向上が期待されている。
国土交通省のBIM/CIMポータルサイトより
「BIM/CIMの3次元モデルは目的ではなく、手段として活用していくことが当然の姿であり、そこにつなげていきたいです。ツールも活用して、いかに現場を効率的にできるか、現場から離れても仕事ができるかという取り組みを進めていきたいと思っています」(森下氏)
同氏は、民間においては多少コストがかかっても、新技術の導入を進めてほしいと訴えて、講演を終えた。
「民間サイドでもできることがたくさんあると思います。その場面だけを考えるとコストが高く感じられるかもしれませんが、そこをグッとこらえて、将来のために新技術を積極的に採用してほしいです」(森下氏)
土木DXの勘所とは
有識者の2人目として登壇したのは、法政大学 デザイン工学部 都市環境デザイン工学科 教授 今井龍一氏だ。同氏は「土木DXの勘所」と題して、業務のICT化やDXを進めていく上でのポイントを紹介した。
今井氏は、DX白書や国際通貨基金(IMF)のレポートを示しながら、AI活用が勝ち組になるためのポイントと指摘した。
「AI活用のポイントは大量の文書ドキュメントの有無です。建設産業では、工事完成図書という膨大な文書があり、デジタル化が進んでいます。それをAIに学習させてしまう。したがって、建設産業は、AIを導入するかどうかによって格差が一気に広がる可能性が極めて高い領域といえます」
また今井氏は、高齢化と人口減少が続く日本においては、ICTを導入してもっと生産性を上げる取り組みをしていかないと、業界として深刻な状況になっていくと警鐘を鳴らした。
そして、ICT化のポイントは、生産性を上げ、省力化、効率化することだが、それだけでは足りないという。従前の仕事のやり方、いわゆる業務プロセスにツールを入れることによってどれだけ生産性が上がるのか、ICTを生かす上で制度が障壁になっていないかといったことも含めて考えていく必要があるとのことだ。
今井氏は、現場での運用を含め、技術、制度、運用の3点セットをしっかりと検討していくことが重要だと指摘した。
データの活用という観点からは、目的を達成するために一から全部作っていくのではなく、知恵を絞って隣でやっているものを加工することによって、自分たちの用途を満たすものを作り出すという方向性に言及した。
「スマートフォンにはセンサーが入っているので、いろいろなデータを取ることができます。ただ、自分たちの用途に合致するものを作ろうとすると、満足できないことは多々あるので、知恵を絞って、自分たちの要件に満足するものを取り込んでいく。そういう発想が、DXを進めていく上でポイントになってくると思います」(今井氏)
今井氏は、DX/ICT化を進めていくときに気をつけるポイントとして3つ挙げた。
1つ目は、AIはあくまで探索システムのため、学習させている以外のことを求めても答え出すのが苦手で、音声、画像、テキストの順番でICT化しやすいという点。
「画像に関しては、人が見て判断できることはAIでも判断できますが、人が見て判断に悩むものはAIも悩みます。そういう認識を持ってください」(今井氏)
2つ目は、完璧を求めないこと。
「人がやっていたときは70点程度なのに、コンピュータがやるとなった瞬間に、なぜ100点求めるのですか? 精度を求めていくとコストに跳ね返って、ランニングコストが持たなくなってしまいます。要件を満足するギリギリのところを狙っていく、そのセンスが重要だと思います」(今井氏)
3点目は、要件を満足するICTを見極めることだ。新しい技術を開発し、それを展開していく際はマネタイズの観点が重要で、ICT企業やスタートアップと連携する場合は、建設産業のことを理解してもらうことが重要だという。
最後に今井氏は、データの原本性・追跡可能性について触れ、講演を終えた。
「データに対する品質を保証するというブランディングと、不足の事態があったときにこれは私たちが作ったデータではないといえるディフェンスの両方ができるような世界を作っていく必要があります。そのためには、データの原本性と追跡可能性の両方を担保できるような仕組みを作っていく必要があるでしょう」(今井氏)