年金評論家・柴田友都が語る「信頼できる年金制度をめざして」

今年7月3日、公的年金の定期健診である財政検証が発表された。女性や高齢者の労働参加の広がりを背景に、生涯の年金給付の見通しが改善すると仮定している。また、人口の約1割は外国人が占める社会として想定され、時代に即した制度が求められている。

 検証も大切ではあるが、33年にわたり、6000件以上の年金記録を見つけて受給に結びつけている私は、年金制度を改善する上で、避けては通れない見直すべき課題は他にあると考えている。

 年金といえば、2007年に世間を賑わせた「消えた年金記録問題」は記憶に新しいだろう。約5000万件の持ち主不明の記録が発覚し、国会で安倍晋三元首相が「最後のお一方まで解決する固い決意をもって最善を尽くす」と答弁した。この発言に期待を抱き、もはや私の役目もここまでと、一度は覚悟を決めた。

 あれから17年の月日が経つが、厚生労働省が公表しているだけでも約1700万件の記録が眠ったままになっている。国が画期的な救済策を講じることなく問題を放置しているために、私はいまだ廃業できずにいる。

 何より、ここ10年、未解決件数が一向に減らない要因は、国民年金・厚生年金の給付の条文にあると考えている。「本人の請求に基づき、厚生労働大臣が裁定する」とあるが、国民から請求されない限り、年金の支払いに国が責任をもたないことを意味している。私が問題視しているのは、まさにこの条文である。

 いくら検証を重ねたところで、年金の支払いを国民に委ねているようでは、私には絵に描いた餅としか映らない。厚生年金の加入が全業種に拡大されようとしている今こそ、国が責任をもって年金を支払う制度に改めるべきだと思う。

 周知のとおり、厚生年金や共済の保険料は給料から天引きされている。国民年金に至っては、滞納すれば差し押さえの通知が届き、支払いを余儀なくされる。このように、国は熱心に保険料を徴収する一方で、年金給付に関しては無関心なくらい消極的なのだ。

 実際に給付の条文が障壁となり、請求が通らない事案がある。日本年金機構の理不尽な回答に審議を申し立てたが、相手はこの条文を盾にして、国民の気持ちに寄り添うこともなかった。何十年も真面目に働き、保険料を滞りなく納付したにもかかわらず、最後に切り捨てられ、報われないことが起きている。これでは、社会保障制度に重大な欠陥があると言わざるを得ない。

 また、制度が広く浸透していないことも請求もれにつながっている。厚生年金制度は、軍需工場の加入を中心に1942年から始まった。戦時中に徴用や挺身隊等で半強制的に動員された多くの労働者は、年金手帳も配られず、制度も十分に知らされてこなかった。情報や理解不足を理由に、年金がもらえないことがあってはならない。

 仮に、災害やシステム障害等で年金記録が失われた場合、今の条文のままでは保障されず、国民が痛手を負う可能性もある。

 そこで、現在の条文に「年金請求時、年金記録告知の義務を厚生労働大臣が負う」という一文を加えることにより、年金給付にかかる諸問題が解決に向けて大きく前進すると考えている。

 これにみなさんが共鳴し、国民から信頼される年金制度になることを強く願っている。

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