政府が推進する働き方改革の一環として奨励されてきたテレワーク。その効果は労働生産の向上や勤務移動時間の短縮、非常時の事業継続性、勤務者のワーク・ライフ・バランス改善など多くの効果をもたらしてきた。

内閣府と総務省、厚生労働省はテレワークの普及に取り組み、顕著な実績を上げている企業を顕彰する共同イベントを11月25日、御茶ノ水ソラシティで開催。内閣府の「地方創生テレワークアワード(地方創生大臣賞)」、総務省の「テレワークトップランナー2024総務大臣賞」、厚生労働省の「輝くテレワーク賞(厚生労働大臣賞)」の表彰式が行われ、受賞企業の取り組みが紹介された。

総務省、厚生労働省、内閣府のテレワークに対する狙いとは

主催者として、総務省総務副大臣の阿達雅志氏、厚生労働省厚生労働大臣政務官の安藤たかお氏、内閣府地方創生推進室次長の大森一顕氏が、挨拶を行った。

阿達氏は、人手不足解消、地方の雇用確保の観点からもテレワークの普及を期待しているとして、次のように述べた。

「テレワークは時間や場所を有効活用でき、多様な生活スタイルに合わせた働き方を可能にします。育児や介護を両立した柔軟な働き方、人手不足解消、地方の雇用確保の観点からも役立ちます。しかし、テレワークの普及率は地方で4割未満 サービスや小売業で5割未満にとどまるなど、まだ十分に普及していない状況です。総務大臣賞は、地方や新たな業種へのテレワークの普及を踏まえて審査をしました。表彰される企業はテレワークを活用して、離職の防止や求人の増加など、高い経営効果を発揮しています。こうした先進的な取り組みが広く共有伝わることで、地方でもテレワークが普及することを期待しています」

  • 総務省 総務副大臣 阿達雅志氏

続いて、安藤氏が「厚生労働省は、令和7年度から段階的に施行される育児介護休業法において、男女とも希望に応じて仕事と育児と介護を両立できるよう、柔軟な働き方としてテレワークを推奨しています。柔軟な働き方を経営戦略に位置づけ、生産性の向上や多様な働き方を実現することで、優秀な人材を確保し、自社の成果につなげられます。多くの企業が受賞企業の取り組みを参考にし、自社の働き方にとどまらず、日本社会に全体にメリットをもたらす形で普及することを期待しています」と語った。

  • 厚生労働省 厚生労働大臣政務官 安藤たかお氏

最後に、大森氏が「石破総理大臣が、地方創生2.0として地方創生を再起動する方針を示し、地方が成長できるよう、新しい地方経済生活環境本部が設立され、今後10年構想の策定に向けて議論を開始しました。今年度より、官民協創の取り組みとして、「地テレ共創ハブ」を立ち上げて、地方創生に熱意のある企業や地方自治体が集い、相互にマッチングする取り組みを行っています。地方創生とテレワークが普及するよう、取り組んでいます」と述べた。

  • 内閣府 地方創生推進室次長 大森一顕氏

内閣府の「地方創生テレワークアワード(地方創生担当大臣賞)」部門での受賞企業・団体

地方創生テレワークアワード(公式Webサイト)

内閣府、総務省、厚生労働省はそれぞれテレワークに関する賞を用意しており、内閣府は地方創生、総務省はICT技術による経営改善と経済活性化、厚生労働省はワーク・ライフ・バランス改善などをテーマに賞を設けている。内閣府の「地方創生テレワークアワード(地方創生担当大臣賞)」は、政府が推進する人口流出や雇用者数の減少、高齢化と地域経済縮小などの地域が抱える経済・社会的な課題の解決にテレワークを活用する「地方創生テレワーク」に尽力し優れた取り組みを行った企業を顕彰する賞だ。

地方の課題解決プロジェクトに取り組んだ企業・団体を対象とする「地域課題解決プロジェクト参画」部門、離職防止や地方人材の採用・育成、ワーケーションの推進等に尽力した企業・団体を対象する「離職防止、地方人材の採用・育成、ワーケーション推進」部門、地域企業等の地方創生テレワークのための環境整備などを行った企業・団体・自治体を対象とする「地方創生テレワーク促進支援」部門の3つがある。

2024年度の「地域課題解決プロジェクト参画」部門では、ATOMicaと日本ウェルビーイング推進協議会。「離職防止、地方人材の採用・育成、ワーケーション推進」部門では、Hajimariとまちと学びのイノベーション研究所、「地方創生テレワーク促進支援」部門では、フロンティアコンサルティングと富士市が受賞し、今回表彰されている。

  • 内閣府 地方創生推進室次長 大森一顕氏とフロンティアコンサルティングの担当者

ATOMicaは、2019年創業のコワーキング事業を展開する企業で、多種多様な地域の人々と地域の声を集約する独自の「ソーシャルコワーキング」事業の全国展開、加えてコワーキング施設の開設から運営まで一気通貫で行うサービスを全国で提供しており、各地域で併せて100名以上のコミュニティマネージャーの採用などが評価された。マネージャーは採用業務や複業の支援、スタートアップの創業支援から商品開発、企業誘致まで地域の活性化の役割りを担っており、それらの活動も評価されている。

  • ATOMicaの「ソーシャルコワーキング」事業のコミュニティーマネージャー(公式Webサイトより)

「離職防止、地方人材の採用・育成、ワーケーション推進」部門で受賞したHajimariは、2015年創業の専門人材の紹介及びマッチングを行うプロパートナーズ事業を展開する企業。同社は地方の「IT人材の育成」と「地域の自治体・企業のDX化支援」を行う地方創生事業「TUKURUS」を展開しており、地方の開発拠点開設のためのラボ型の開発エンジニアリソース支援や地方企業のDX推進のサポート、地方でのエンジニアの採用と育成などが評価された。

「地方創生テレワーク促進支援」部門で選出されたフロンティアコンサルティングは、2007年創業のワークプレイス構築及びビルリニューアル、フレキシブルワークプレイス構築事業を展開する企業で、今回の受賞は同社が東京都伊豆大島の大島町と締結した「多様な働き方による地域活性化に関する連携協定」をもとに実施しているサステナブル拠点「Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO」の活動が評価された。

大島町所有の施設を改修して同社のサテライトオフィス兼島内外のワーカーが無料利用できるコワーキングスペースにするというもので、施設は公益財団法人東京しごと財団の「サテライトオフィス設置等補助事業」にも採択されている。

総務省の「テレワークトップランナー2024総務大臣賞」にはキャスターと山岸製作所、TRIPORTの3社が選出

「テレワークトップランナー2024」(公式Webサイト)

「テレワークトップランナー2024総務大臣賞」は、総務省がテレワークにおいてICT技術を活用した先進的な取り組みを行っている企業・団体を選定し公表する「テレワークトップランナー2024」の中から特に優秀な企業を表彰する賞。キッチハイク、キャスター、大同生命保険、ヌボー生花店、ハーツテクノロジー、パソナグループ、プログレス、星野工業、マルゴト、モニクル、山岸製作所、ユーミーコーポレーション、TRIPORTの13社が「テレワークトップランナー2024」に選出されており、その中から今年の総務大臣賞としてキャスターと山岸製作所、TRIPORTの3社が選出されている。

受賞企業のキャスターは、「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げコロナ禍以前の2014年より創業、テレワークを活用したリモートアシスタントなどの人材事業を展開してきた。全国800名以上の従業員の完全テレワーク化と東京水準賃金の達成、中小企業が導入しやすい小ロットでのBPO(Business Process Outsourcing:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ビジネスの推進による人材不足の解消などが高く評価された。

TRIPORTも同じく2014年に創業する企業で、ITソリューションの開発・販売と経営・労務コンサルティングを業務とする同社では、会社の代表電話やメールによる問合せ等を生成AIで要約し、社内のメンバーに自動通知するシステムを構築。全社員の勤務及び業務状況が分かるバーチャルオフィスも導入するなど、最新のICT技術やAIを活用しテレワーク環境のサポートを行ったことなどが評価されている。

  • TRIPORTの代表電話対応自動化システムの概要(同社資料より)

厚生労働省の「輝くテレワーク賞(厚生労働大臣賞)」

「輝くテレワーク賞」(公式Webサイト)

「輝くテレワーク賞(厚生労働大臣賞)」は、勤務場所を自由に設定できるテレワークを効果的に活用し、子育てや介護、自身に合ったライフスタイルと仕事を両立しながら労働者の「ワーク・ライフ・バランス」向上に寄与する模範となる取り組みを実践する企業・団体などを顕彰する賞。

今回、優秀賞にプログレスが選出、特別奨励賞にグリービジネスオペレーションズと有限会社ジェム、パーソルホールディングス、Massive Act、吉村の6社が選ばれた。

優秀賞に選ばれたプログレスは総務省の「テレワークトップランナー2024」でも選出されており、昨年も「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」を受賞するなど国内のテレワーク業務の草分け的な存在。同社は「フルリモート×フルフレックス」を前提としたシステム開発を行う企業として2020年創業された企業で、110人の従業員は関東圏に50%と集中するもののそれ以外は北海道から沖縄まで広く分布、それぞれライフステージに対応した勤務形態で働いている。

同社ではテレワークのためにコミュニケーションガイドの策定とテレワークに必要なスキルをまとめたスキルマップ「PeMAP」を作成し仕事の質の向上を図る他、テレワークで発生しやすい社員の孤立化に対して1on1や定期サーベイによるモニタリングなどの社員サポートも行っている。

  • プログレス社員の分布図。半数は関東圏だがそれ以外は全国に(同社資料より)

テレワーク業務を柱とするベンチャー企業が多く入賞、今や若者にとってテレワークは当たり前に

テレワークは、コロナ禍に一気に普及が進んだが収束後はその勢いに陰りが見えており、世界的な規模での企業で導入廃止の動きが見られるなど現在曲がり角に直面している。しかし、その一方でテレワークは着実に浸透しており、NTT東日本が2022年に行った「10年後、テレワークはどうなる!?『未来の働き方』学生約600人に徹底調査!」において「自分にはどのような働き方が合うと思いますか?」という質問に対して28.3%がテレワーク中心派、47.8%がテレワークとオフィスワークの折衷派(ハイブリッド)を選択するなど併せて約75%がテレワーク環境で仕事をすることを前提としている。

また、転職・就職情報事業を展開する学情が2024年7月に発表した「2026年卒学生の就職意識調査(リモート勤務)2024年7月版」においても「リモート勤務」制度がある企業は「志望度が上がる」と回答した学生が7割を超えるなど、大学生・大学院生にもテレワーク導入が就職先の選択肢の一つと捉えている現状がある。

ATOMica、Hajimari、キャスター、TRIPORT、プログレスなどの企業は、近年創業された企業でテレワークを事業の柱としており、一部企業は完全テレワークを導入しアピールポイントとするなど注目度は高い。今回の受賞企業の活躍が今後の更なるテレワーク率向上に繋がることが期待できる。通勤・通学時の電車等における混雑緩和や、地方が抱える過疎化問題や人口流出による地域経済問題などの課題解決においてもテレワークが果たす役割は大きいのだ。今後のさらなる普及活動に期待したい。