北海道大学(北大)は11月28日、スウェーデン宇宙公社(SSC)の観測ロケット「MASER」16号機を用いて、微小重力環境下で、天体から放出される高温のガスが冷える過程で生成される主要な宇宙ダストで、ナノメートルスケールの微粒子である「カーボンダスト」の核生成過程の解明を目的とした実験に成功したことを発表した。
同成果は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とドイツ航空宇宙センター(DLR)との国際協力を受け、北大 低温科学研究所の木村勇気教授のほか、独・ブラウンシュヴァイク工科大学の研究者らも参加した国際共同研究チームによるもの。
隕石や「はやぶさ」シリーズなどの探査機が持ち帰った地球外物質には、太陽系の年齢よりも古い炭素の微粒子であるカーボンダストが含まれている。同物質は、約46億年前に誕生した太陽系に、材料をもたらした天体が放出したガスの中で生成された星の欠片である宇宙ダストであり、生成された後に星間空間を漂い、分子雲から原始太陽系星雲を経て太陽系の材料の一部となったのである。
炭素は太陽系の固体物質の主要な構成物質の1つで、生命へとつながる有機物の主要元素でもあるため、カーボンダストが宇宙で生成される条件や、生成の現場となる天体環境に関する研究が進められている。しかし、これまでに生成過程を理論的に説明するために使うべき物性値などの値を決めることができていなかったとする。これは、炭素がダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、非晶質(ガラス状態)と多様な形態を取るため、カーボンダストの生成過程を考える時に用いるべき値に大きな不定性があることが1つの要因だという。
研究チームは2019年にMASERロケット14号機を用いて行った炭化チタンを含んだ炭素質粒子の生成実験において、宇宙ダストの生成過程の理解には、ナノ領域の特異性と非古典的な生成経路が重要であることを解明済みだ。さらに、カーボンダストが非古典的な生成経路を取ると、他の炭素質物質の生成過程の理解にも影響することも突き止めていた。
そこで今回の実験では、天体周辺で形成されるのと同様の生成過程を経て、同じような温度で同じような形態を持った炭素粒子が形成することが期待されることから、カーボンダストが天体の放出ガス中で生成されるプロセスを模擬した実験を微小重力環境で実施。ガスの冷却速度と炭素の原子同士の衝突頻度の比が、天体周辺での宇宙ダストの生成過程と同様になる実験を行ったという。
今回の研究では、2024年11月26日14時(日本時間)に、スウェーデン・キルナ市のエスレンジ宇宙センターからMASERロケット16号機が打ち上げられ、高度約256kmまで到達、約375秒間の微小重力環境が実現された。
炭素の粒子が形成する時のガスの温度と濃度を同時に決定するため、屈折率変化を100万分の1以下の精度で検出できる小型の2波長レーザー干渉計が作製された。気体の屈折率は温度、濃度、レーザー波長で決まるため、異なる2波長の光を微粒子の生成環境に入射して屈折率変化を同時に得ることで、温度と濃度を同時に求めることが可能になる。実験の結果、カーボンダストの生成過程を理解するために最も重要な2つの物理量である「表面自由エネルギー」と「付着確率」の決定につながるデータを取得することに成功したという。
今回の炭素粒子の生成実験は、2019年に炭化チタンで得られた知見を拡張し、異なる宇宙ダストがどのように成長し、宇宙空間での物質循環に寄与するのかを理解するための重要なステップになるとする。またカーボンダストの生成効率がわかると、宇宙における炭素質物質の生成や成長過程を理論的に予測できるようになる。その結果、138億年の宇宙史における物質進化の理解が飛躍的に進むことが期待されるとした。また同時に、はやぶさ2などの探査機が持ち帰った地球外物質に含まれるカーボンダストを含んだ試料の分析結果の理解も進むことが期待できるといい、今回得られた実験データは、今後数か月をかけて解析を行い、論文などの形で公表する予定としている。