岡山大学は11月27日、一般的に観測される六角形の雪片の氷の結晶について、ナノスケールの水滴が凍るプロセスを計算機シミュレーションによって詳細に調べた結果、70度の角度を持つ「五方両錐形」や「正二十面体形」の氷の粒が一定の割合で生じることを突き止めたと発表した。
同成果は、岡山大 異分野基礎科学研究所の松本正和准教授、中国浙江大学の望月建爾教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンス/テクノロジーに関する全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。
雪の結晶は、そのほとんどが六角形を基本としており、非常に美しい幾何学的な形状をしていることで有名だ。多くの人が、その顕微鏡画像を一度は見たことがあるのではないだろうか。細かく見ればひとつとして同じ形はないといわれるほど実にさまざまではあるものの、基本形として六角形であることが共通している点は、氷の結晶中で水分子が六角形に並んでいることが理由である。
それでは、生まれたばかりの氷の粒も最初から六角形なのかというと、それは確認が取れていないという。何しろ、雪になる氷の粒は雲の中で生まれるため、実際に自然の中でそれを確かめることは容易ではないからだ。ただし、地上からその形を予測する良い方法があるという。太陽にかかる暈(かさ)が太陽の向きからどれだけ離れているかを観測すると、暈を形成している雲の粒(氷晶)の形が推定できることから、それを利用するのである。
暈は、高空にある雲の中の氷晶が太陽の光を屈折することで生じ、多くの場合太陽を中心とした22度や46度の大きさの丸い環として観察される。この角度から、氷の粒の面と面のなす角度が60度や90度であることが推測できるのだ。つまり、氷の粒は六角形(六角柱)であるということが示されている。
ただ、ごくまれに28度の「シャイナーの暈」が生じることがある(およそ400年前に初めて記録した人物の名が冠せられている)。暈の角度が28度ということは、氷の粒の面と面のなす角度が約70度であることを意味する。
また、地上に降る雪の結晶、実験室で作った人工雪の中にも、2つの雪片が70度でくっついた双子の結晶である「双晶」がしばしば見つかる。これは、2つの雪片が後からくっついたわけではなく、生まれた時から互いに70度だけ傾いた2つの結晶が同時に成長したこと、つまり最初の氷の粒に70度の面があったことが示されているという。
そして今回、氷の粒がどんな形であれば70度の面が生じるのかを調べられたところ、これまで「立方晶氷」の正八面体型結晶粒が70度の面を持つので、これが双晶やシャイナーの暈に見られる70度の起源だと考えられてきた。立方晶氷とは、通常の氷の六方晶氷と密度などの物性が酷似するが、結晶構造が異なっていることが特徴だ。通常の氷よりもわずかに不安定なため、完全な立方晶氷は水を冷やしただけで自然には生じることはないが、高空の雲の粒のように非常に小さいサイズの氷では立方晶になることもあるといわれている。そこで研究チームは今回、ナノスケールの水滴が凍るプロセスを計算機シミュレーションによって詳細に調べたという。