宇野康秀・U―NEXT HOLDINGS社長CEO  「コンテンツ配信事業で米Netflixを抜き、国内ナンバーワンの座を目指す」

「日本の国内プレーヤーがトップに立つくらいの気概を持って取り組まないといけない」─こう話す宇野康秀氏。グループのコンテンツ配信事業「U―NEXT」は、日本では米Netflixに次ぐ存在。この会社を「超えたい」と宇野氏は力を込める。この事業以外にも、同規模の事業の柱を2つ持ち、今はさらに新たな事業領域の開拓も進めている最中。起業して36年が経った宇野氏がいま思うこととは─。

3本の事業の柱がバランスしている状態に

 ─ U―NEXT HOLDINGSは、近年は映像配信事業のU―NEXTの知名度が高いですが、それ以外にも事業の柱を複数持っていますね。

 宇野 当社の事業は映像配信のU―NEXTなどの「コンテンツ配信」、昔から手掛けている店舗BGMや、配膳ロボット、決済サービスなど、店舗のDXを支援する「店舗・施設ソリューション」、通信回線や電力を提供している「通信・エネルギー」という3つの大きな柱があります。それぞれが売上高で1000億円程度、利益で100億円程度まで拡大しており、うまくバランスしている状態です。

 ─ 中でもコンテンツ配信事業では、外資系のNetflixの存在感はありますが、U―NEXTは国内2位で、超えることを目指しているそうですね。

 宇野 Netflixを超えたいと頑張っています。元々、我々は2001年頃から光ファイバーのサービスを始めたのですが、インターネットが高速化することで動画の配信サービスが成り立つのではないかと考え、当時から実験的にサービスを始めていました。それ以降、「GyaO」(後にヤフー=現LINEヤフー子会社の事業に。現在はサービス停止)というサービスを開始するなど、我々は長い時間をかけて、映像配信ビジネスを広げてきました。

 それこそNetflixが世界で始めるよりも先に手掛けていたのです。彼らは元々DVDの宅配レンタルからスタートして、付属サービスとして配信を始めたという経緯があります。

 ─ 先に手掛けていたという自負があるということですね。

 宇野 そうです。日本国内のことで言えば、ネットメディアには放送の規制がかかりません。テレビ局には外資が参入できないわけですが、ネットメディアは全て外資に支配されてしまうというリスクもあります。

 そう考えると、やはり日本の国内プレーヤーがシェアを取って、トップに立つくらいの気概を持って取り組まないと、デジタル周りのサービスは全て外資に持っていかれてしまうことになります。これは何とかするべきだという思いもありましたから、「Netflixを超える」という目標を掲げさせていただいています。

 ─ 足元でU―NEXTの会員数が約445万人、Netflixは非公表ですが700~800万人という推定がありますね。U―NEXTの強み、特徴はどこにありますか。

 宇野 品揃えの多さで勝負する「百貨店戦略」という言い方をしています。ユーザーからすると、U―NEXTに行けば何でも見つかるというプラットフォームに育てていこうということで、当初から各ジャンルの作品数の多さは、他のサービスに比べて断トツでナンバーワンという状態を続けてきました。

 映画、ドラマなどの映像作品もそうですし、特に最近力を入れているのが音楽のライブ配信やスポーツ中継です。宝塚の劇場配信も行うなど、様々なライブコンテンツを増やし、単に映画を見るサイトではなく、スポーツも含め、何でも見ることができるサービスとして広げてきているんです。

 ─ その意味ではコンテンツを提供する事業者との連携が大事になってきますね。

 宇野 そうですね。各種のスポーツ団体と連携していますし、格闘技も人気のコンテンツです。また、2024―25シーズンを皮切りに7年間の英プレミアリーグ(イングランド1部)の独占ライブ配信の権利を取得しました。

 また24年9月には米ワーナー・ブラザース・ディスカバリーと新たな独占パートナーシップ契約を締結しました。ワーナーは「Max」というサービス名で、65カ国で動画配信事業を展開しており、約1億人のユーザーがいます。

 これを日本では当社と組んで、U―NEXT内で「Max」のコンテンツを配信します。同時に、世界ではワーナーを通じて、我々が調達したコンテンツをグローバルに発信していきます。

 ─ 23年3月にはTBSテレビ、テレビ東京、WOWOWなどが出資していた「Paravi」を統合しましたね。今後の国内の再編をどう見ますか。

 宇野 テレビ局さんが展開する動画配信事業があり、おっしゃるように「Paravi」は我々と一緒になりましたから、再編に関するご質問はよくいただきます。

 我々は国内サービスを強くすることを第一義に事業展開しており、機会があれば他社ともご一緒したいという思いはあります。ただ、各局のご事情がありますから、我々だけでどうにかできるものではありません。将来どうなるかはわからないというのが正直なところです。

 ─ 海外に作品を配信する際、やはり日本のアニメなどは強みになりそうですか。

 宇野 ワーナーとの連携では、日本が強みを持つアニメを配信したいということは期待値として当然あります。そして実際に我々がコンテンツを海外に出していくことで、どの作品が、どの国、地域で非常に評価されるかがわかってきます。今後はそれを踏まえた上で、新たな調達や製作に関与していけると思いますから、非常に楽しみです。

 ─ U―NEXTとしては、自らコンテンツを製作することはしないんですか。

 宇野 基本的に我々はプラットフォームとしての機能だと考えており、自分達で製作していくような考え方は持っていません。これはNetflixとスタンスが違う部分です。ただ、時には「製作委員会」に参画することで製作に関わるということはあるかもしれません。

金融・不動産が新事業領域に加わる

 ─ 店舗を支援する「店舗・施設ソリューション」は人手不足もあって需要が強そうですね。

 宇野 ええ。元々、有線放送で北は北海道、南は沖縄まで全国のお客様がいることが基盤になっています。業種的には飲食店や小売店などサービス業関連が多く、そのお客様に対応する営業員、サービスメンテナンスをするフィールドエンジニアが全国に配置されていることが強みになっています。

 今、各店舗ではキャッシュレス対応や、人手不足もあってお客様自らがスマートフォンでメニューを読み取ってオーダーするシステム、配膳ロボットが必要になっており、こうしたオペレーション効率化の仕組みを提供しています。

 ─ 特に地方では人手不足が深刻化していますから、非常に重要な仕事になりますね。

 宇野 サービス業の人手不足は、少子高齢化も含め、解消が非常に難しい課題です。昨今、話題になっているように賃金上昇は続いていきますから、今のままでは多くの店舗が何らかの機械化、自動化を進めていかなければ対応できません。

 3つ目の柱である「通信・エネルギー」は、先程お話した01年から光ファイバービジネス以来、継続していることが基になっています。

 今、DX、デジタル化が言われますが、通信インフラがあって初めて、デジタルのソリューションが提供できるわけです。ですから重要な基盤だと考えて継続しているということです。

 ─ エネルギーは2050年の脱炭素目標もあり、日本でも重要な課題になっています。

 宇野 我々は電力小売り自由化を受けて参入しましたが、我々のお客様である施設のエネルギーコストを下げ、その分をデジタル投資に回していただくという考え方で進めています。

 もう1つ、おっしゃったように世の中に求められるSDGs(持続可能な開発目標)対応で、望まれるお客様にはグリーンエネルギーを提供しています。

 ─ 3本柱以外に新たな事業の柱づくりを進めていますか。

 宇野 今、新たな柱とすべく「金融・不動産・グローバル」というセクターを設けて取り組んでいます。金融サービスや不動産仲介、自社で物件を取得し、テナントリーシングをするという事業に取り組み始めています。

 すでに東京都内や石川県金沢市の商業ビルを取得し、自社ビルとしてテナントリーシングをするとともに、グループ商材の店舗BGM、決済サービスなどDXを仕上げた状態にした高付加価値の商業ビルを提供していくことにしています。

 他にも、金融関連では、フィンテックに取り組んでいます。特にキャッシュレスの部分は、まだまだ需要があります。

起業家への決意とその後の波乱万丈

 ─ 宇野さんは25歳でインテリジェンス(現パーソルキャリア)を起業し、その後、お父さん(宇野元忠氏)がつくられた大阪有線放送社(現USEN)を引き継いできた。起業する意識はどこから生まれましたか。

 宇野 私は大阪の道頓堀の商店街の賑やかな場所で生まれましたから、親戚を含め周囲も何らかの商売をしていることが多く、小さい頃から商売人になろうと思っていました。

 中高生くらいになって、松下幸之助さん、盛田昭夫さん、本田宗一郎さん、中内㓛さん、藤田田さんといった方々の本を読むようになり、自分も経営者になりたい、少しでもこういう立派な人達のようなことがしたいと強く思うようになり、大学に進学する頃から絶対に経営者になろうと決めていました。

 そうして89年に25歳でインテリジェンスを創業しましたが、その後、2、3年してからバブル崩壊が始まりました。少しずつ成長できてはいましたが、急な坂道を自転車で登っているような感覚で逆風でしたね。

 ─ USENを引き継いだ経緯は?

 宇野 インテリジェンスは10年で上場する目標を持っており、ちょうど上場申請をしたタイミングで父が他界し、私がUSENの経営を引き継ぐことになりました。

 最初はインテリジェンスの社長と兼務でできると父から説得されて引き受けた面もあります。ただ、私は当時インテリジェンスの株式を40%ほど保有したままUSENの100%株主になったのですが、上場審査にあたってUSENが子会社扱いとなり、審査をやり直さなければならないと聞かされました。

 もう1つは、USENが有線放送のために違法に電柱を使用しているという問題もありましたから、これに兼務のまま対応しているとインテリジェンスの上場が遅れる、あるいは上場できなくなってしまうということがあり、インテリジェンスの経営は譲ることにしました。

 その後、USENの電柱問題を解消し、そこに光ファイバーを張ることで、世間にもご迷惑をおかけした資産が、日本の未来に資するものに変えられるのではないかと、第一種通信免許を取得して光ファイバーサービスを始めたという経緯です。

起業家人生  36年が経ち思うこととは?

 ─ 起業から36年が経ったわけですが、改めて振り返っていかがですか。

 宇野 お陰様で様々な経験ができ、今の会社の将来の成長が見えるところまで来たという意味では、いい経営者人生だなという思いもありますが、36年経ったと考えると、もっといろいろなことができたのではないかという、届き切っていない悔しさみたいなものもあります。

 また、若い頃はとにかく会社を大きくしよう、社会的に影響力のある会社になろうという感覚でやっていましたが、リーマンショックの影響を受け、その後一旦USENの社長を退任し、もう1回ベンチャーをやり直すという経験もしました。

 そこから戻り、先を見ていく中で思うのは、会社はただ大きくすればいいというものではないということです。本当の意味での会社の価値をつくっていかなければいけないということを、今はより気にするようになってきたかもしれません。

 ─ 自社の存在価値とは何かを考えるようになったと。

 宇野 そうです。自分達のビジネスは世の中から必要とされるものであり続けなければなりません。ですから少し先の未来を読んで、そのソリューションを提供していく。それが私達の存在意義なのだと思います。

 そして私がいなくなった後もきちんと成長し、夢があり続ける会社としてつながっていくことが大事だと考えています。