産業技術総合研究所(産総研)、大阪大学(阪大)、雪印メグミルクの3者は11月26日、「ラマンイメージング」(物体に照射された光がラマン散乱した際の信号を二次元的に取得して画像化する手法)と機械学習を用いて、マーガリンの品質や乳化状態を化学的な定量性に基づき評価する解析技術を開発したことを共同で発表した。
同成果は、産総研 先端フォトニクス・バイオセンシングオープンイノベーションラボラトリのテイラー・ジェームス主任研究員、同・畔堂一樹招聘研究員、同・藤田聡史副ラボ長、阪大大学院 工学研究科の藤田克昌教授、雪印メグミルクの塚越詩織研究員、同・田中礼央主査らの共同研究チームによるもの。詳細は、食品の化学および生化学に関する全般を扱う学術誌「Food Chemistry」に掲載された。
マーガリンは、植物油脂の中に水滴が分散する微細構造である「W/O(water-in-oil)エマルション構造」を保つことで固化し、バターのような外観を保っている。マーガリンの保存期間、油脂と水の含有量、乳化剤の種類や割合、製造時の攪拌(かくはん)速度などの製造工程は、マーガリン中の水滴の大きさや数、水滴表面を起点として形成される微細構造(油脂の結晶ネットワーク構造)に影響を及ぼすといい、これらがマーガリンの粘弾性(舌触り)や、油がマーガリンから染み出す「オイルオフ」現象にも大きく関与することが知られていた。しかし、これまでマーガリン中の油脂と水の分布と分子情報を直接イメージングする手段は存在しなかったという。
産総研と阪大は、2017年より阪大 吹田キャンパス内に「産総研・阪大 先端フォトニクス・バイオセンシングオープンイノベーションラボラトリ」を設置して共同研究を実施している。今回は、その中で阪大が開発したラインスキャンが可能な高速ラマン顕微鏡を用いて、森永メグミルクを加えた3者による研究が行われた。その手法としては、マーガリン中のW/Oエマルション構造が放つラマン散乱信号を二次元画像として取得し、基本的な機械学習アルゴリズム「k平均法」を用いることで、水分子、脂質分子、水酸基の分布の分析を試みたとする。
今回サンプルとしたすべてのマーガリンは、水/油脂が同じ比率で混合され、添加剤である乳化剤の種類や攪拌速度を変えて製造されたもので、製造後の保管期間が異なるマーガリンが用意された。
研究チームによると、ラマンイメージングの結果は予想通りで、新しいマーガリンと比べて、古いマーガリンでは油脂中の水滴のサイズと信号強度が小さくなる傾向があることがわかったという。これは古いマーガリンの水分が蒸発した結果を検出していることが考えられるとする。