26日午前8時半ごろ、鹿児島県南種子町の宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センターで、開発中の小型ロケット「イプシロンS」の2段機体の燃焼試験中に爆発が発生した。JAXAによると、けが人や外部の物的損害はない。原因は不明。昨年7月、秋田県内で同じ試験を実施して爆発を起こしており、対策を講じた上での再試験だった。イプシロンSは今年度中の初打ち上げを目指していたが、原因究明や対策、試験施設の復旧が必要で、困難となった。
試験はイプシロンSの3段構成のうち、2段機体の燃焼に関する約200項目を計測する目的で実施した。約2分間燃焼する計画で点火したが、10~20秒で機体内部の圧力が予想を上回り始め、設計上の耐久圧力以内だったが約49秒で爆発した。JAXAの記録画像によると、爆発により試験設備付近から不規則な炎が上がり、黒煙が上空へと立ち上った。JAXAの消火活動により午前9時15分に鎮火した。試験時に約600メートル以内の立ち入りを規制しており、けが人はなかった。
2段の燃焼試験は昨年7月14日にも、JAXA能代ロケット実験場(秋田県)で実施したが爆発が起き、真空中で燃焼させる試験棟が大破している。JAXAは同12月、点火器の部品が溶けて機体内部に飛び散り、断熱材を損傷したことが原因だったとする調査結果をまとめた。部品が溶けないよう断熱材で覆う対策を実施。能代の試験棟の再建が必要となったのを受け、再試験を種子島の、大気中で燃焼させる屋外試験設備で行った。しかし結果的に、爆発の再発を防げなかった。
JAXAの井元隆行プロジェクトマネージャは26日の爆発後、報道陣に「全力を尽くして原因を直したにも関わらず、再びこのような事態になり非常に残念で、期待に応えられず申し訳ない。打ち上げでこういう事態が出る前に(課題が)見つかった。失敗から多く学び、より信頼性の高いロケットにしていきたい」と話した。
2段燃焼試験は再発防止策を講じた後、いずれかの施設の復旧を待って再度行う見込み。復旧に能代の試験棟は数年、種子島の施設は少なくとも数カ月かかる。能代には大気中で燃焼させる試験棟もあるものの、安全対策の強化が必要という。今回の爆発を受け、追加の試験を行う可能性もある。
イプシロンは3段式の固体燃料ロケット。大型の液体燃料ロケット「H2A」や後継機「H3」と共に政府が「基幹ロケット」と位置づける。科学や観測、技術実証目的の小型衛星を搭載。1段をH2Aの固体ロケットブースターと共通化し、機体点検や管制を合理化するなどしてコストを抑えた。従来型を2013~22年に6機、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)で打ち上げ、1~5号機が成功した。
改良型であるイプシロンSは全長27.2メートル。打ち上げ能力は、重さ600キロの衛星を地球観測などに使われる太陽同期軌道に載せる場合に最高高度700キロとなり、イプシロンの同500キロから向上。1段は、H3の固体ロケットブースターと共通化する。
その他の主な改良点としては(1)機体上端のフェアリング(衛星カバー)を従来の2段燃焼開始前ではなく、燃焼中に分離し、軌道の自由度を高める、(2)フェアリングが3段機体を覆わない構造とし、衛星を搭載して10日以内に打ち上げられるようにする、(3)3段機体の姿勢制御の方式を変更し、衛星にかかる負荷を軽減する――という。
2段機体は従来型の全長4メートルから4.3メートルに大型化し、搭載燃料は15トンから18トンに増量。推力を470キロニュートンから610キロニュートンに高める。打ち上げで1段を分離後、2分程度にわたり燃焼する。
イプシロンSはJAXAとIHIエアロスペース(東京都)の共同開発で、2機目から同社に打ち上げ業務を移管する。従来型で50億円前後だった打ち上げコストの目標は非公表だが、将来は消費税と安全監理費用を除き30億円以下を目指すとみられる。なお、呼称はイプシロンS初号機などとせず、従来型の号数を継承して「イプシロン7号機」などとすることを、JAXAが25日明らかにした。
従来型の最終6号機は2022年10月、姿勢制御装置の燃料タンクの部品がちぎれて配管が詰まり、打ち上げに失敗している。昨年3月にはH3の初号機も失敗。H3はその後、3機連続で成功していたが、今回の爆発により、国産ロケット技術の信頼性に影を落とす事態が再発した形となった。
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