南カリフォルニア大学(USC)の学生団体「USCロケット・プロパルション・ラボラトリー(USCRPL)」は2024年11月15日、10月に打ち上げた「アフターショックII」ロケットの飛行結果を発表した。

最大到達高度は143.3km、最大速度は秒速1.61km、マッハ5.5で、到達高度と速度の両面で、アマチュア・ロケットの世界記録を塗り替えたとしている。

  • 2024年10月20日に打ち上げられた「アフターショックII」ロケット

    2024年10月20日に打ち上げられた「アフターショックII」ロケット (C) USCRPL

アフターショックIIの世界記録

USCRPLは2005年に設立された団体で、2019年に「トラベラーIV (Traveler IV)」ロケットで高度100kmの宇宙空間に到達した(*1)。学生が開発したロケットが宇宙(カーマン・ライン)に到達したのは世界初だった。

*1:ただし、GPSデータの記録が不完全だったことから、USCRPLでは到達高度は33万9800ft(約104km)±1万6500ft(約5.02km)とし、「90%の確率で高度100kmを超えたと考えられる」と結論づけている

それ以来、同団体は自らの記録を破るため、新しいロケットの開発を続けてきた。

そして2024年10月20日、USCRPLはネバダ州にあるブラックロック砂漠で、「アフターショックII (Aftershock II)」ロケットを打ち上げた。

その後、飛行データの分析を行った結果、最大到達高度は47万400ft(143.3km)、最大速度は秒速5283ft(1.61km)、マッハ5.5だったと結論づけられた。分析結果をまとめた論文は11月15日付けで発表された。

これまで、学生ロケットの最高到達高度は、同団体のトラベラーIVが2019年に記録した33万9800ft(104km)だった。また、社会人が参加するアマチュア・ロケットも含めると、2004年に米国の非営利団体CSXT(Civilian Space eXploration Team)が開発した「ゴーファスト(GoFast)」ロケットが記録した38万5800ft(117.6km)が最高だった。

アフターショックIIは、この両方の記録を破り、また米国連邦航空局(FAA)が定めるアマチュア・ロケットの高度制限である49万2000ft(150.0 km)にも迫った。

また、最高速度についても、学生ロケットではトラベラーIVの秒速4966ft(秒速1.51km)、アマチュア・ロケットも含めるとゴーファストの秒速5019ft(秒速1.53km)が最高だった。したがって、アフターショックIIはこの記録も塗り替え、アマチュア・ロケット史上、最も高く、そして速く飛んだロケットとなった。

アフターショックIIは全長約4m、直径0.2m、全備質量146kgの固体ロケットである。ロケットモーターから電子機器まで、ほぼすべてをUSCRPLが内製している。

モーターケースはフィラメント・ワインディングの炭素繊維・エポキシ複合材料製で、固体燃料で飛行するアマチュアのカーボン・ケース・モーターとしては史上最大だという。

固体推進薬には、独自に開発した配合を使用し、原材料から生成した過塩素酸アンモニウム複合推進薬を用いている。ゲイン形状はBATES(ちくわ状)を採用している。

また、トラベラーIVで見られた、超音速域での激しいエロージョン(浸食)に対応するため、アフターショックIIでは機体やフィンなどに、独自に開発したシリコン・ベースのアブレーション(除融)熱保護システムや、チタンコーティングを採用し、耐久性を向上させたという。

さらに、コンピュータ・システムと回路は学生チームによって一から設計、製造され、データをリアルタイムで確認できるようになったという。これにより、飛行中のロケットの位置を追跡し、データを収集したうえで、降下後にロケットを回収することが可能になったとしている。

USCRPLは今年4月20日、前号機にあたる「アフターショックI」を打ち上げたものの、プログラムのミスと、打ち上げ前の二次チェックを実施していなかったことが原因で、失敗に終わっていた。

USCRPLのエグゼクティブ・エンジニアを務める、同大学のライアン・クレーマー氏は、「トラベラーIVで自分たちが達成した記録を超えるには、多くの技術的、運用上の課題を解決する必要がありました」と語る。

「とくに、極超音速での耐熱性は大きな課題でした。私たちが開発した熱防護塗装システムは完璧に機能し、ロケットをほぼ無傷で帰還させることができました。また、フィンの先端は、従来はむき出しのカーボンでしたが、チタン製に置き換えました。チタンは、カーボンのほつれを防いだだけでなく、飛行中の高温で陽極酸化し、青く変色しました。これは、私たちのロケットが過酷な条件に耐えたことを示しています」。

  • 宇宙空間に到達したアフターショックIIから撮影された光景

    宇宙空間に到達したアフターショックIIから撮影された光景 (C) USCRPL

学生の宇宙ロケット開発

学生のロケット開発をめぐっては、2023年にドイツのシュトゥットガルト大学の団体「HyEnD」のハイブリッド・ロケット「N2ORTH」が、高度64.4kmに到達した。これは、欧州における学生ロケットの最高記録であり、また学生が開発したハイブリッド・ロケットの世界記録となっている。

HyEnDはその後、N2ORTHの2号機で高度100kmへの到達を目指したものの、打ち上げは失敗に終わった。

また、オランダのデルフト工科大学の学生団体「デルフト・エアロスペース・ロケット・エンジニアリング(DARE)」は、2015年にハイブリッド・ロケット「ストラトスII+(Stratos II+)」を打ち上げ、高度21.5kmに到達した。2016年に前述のHyEnDに抜かれるまでは欧州におけるレコード・ホルダーだった。

DAREは現在、宇宙到達を目指した「ストラトスV」を開発している。

参考文献

Aftershock II - USCRPL
USC Student Rocket Group Shatters International Amateur Space Record - USC Viterbi | School of Engineering
First Results of the N2ORTH Post Flight Analysis - HyEnD - Hybrid Engine Development
Stratos V - Delft Aerospace Rocket Engineering