東北大学は11月19日、北海道芦別市(あしべつし)の芦別岳北西に露出する地層である「蝦夷層群」から、詳細な年代が不明だった白亜紀前期に海洋生物の多くが絶滅した「海洋無酸素事変」のうちの最大規模の1つである「OAE1a」の時期に堆積した地層を見出し、そこに挟まれる数多くの火山灰層から抽出した珪酸塩鉱物「ジルコン」を用いて年代測定を実施した結果、OAE1aの発生年代が従来仮説より約150万年も若い約1億1955万年前に発生し、その後、約111万6000年にもわたって海洋の広範囲で無酸素環境が持続したことがわかったと発表した。
同成果は、東北大 総合学術博物館の髙嶋礼詩教授、米・ウィスコンシン大学のBradley S. Singer教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
白亜紀(約1億4500万年前~約6600万年前)において、規模の違いはあるが、海洋において酸素に枯渇した水塊が広域に発達した海洋無酸素事変がおよそ8回起きたとされており、詳細な発生年代が不明のOAE1aと約9400万年前に起きた「OAE2」が最大規模だったとされている。
OAE1aの地層は、無酸素海洋環境下で堆積したヘドロが固結した「黒色頁岩」という地層の広域な分布が特徴だ。このような地層は欧州や大西洋の周辺地域で広く露出しているが、それらの地域の地層には、数値年代を得るために必要な火山灰層が挟まっていないため、同イベントの発生年代については、1億2500万年前とする説や1億2100万年前とする説など、さまざまな年代が提案されてきた。
またOAE1aの原因として、中央太平洋に形成された「オントンジャワ海台」の噴火とする説が長年有力視されていた。同海台は、現存する火山体としては地球上で最大のもので(日本の総面積の5倍以上、厚さは4kmに達する)、地球史上最大規模の噴火の産物と見なされている。しかし2023年、同海台の玄武岩から、OAE1aの推定年代よりもはるかに若い1億1653万~1億1162万年前という年代が得られたことから、OAE1aの発生原因についても再検討の必要が指摘されていたとする。
白亜紀当時、北海道中央部はアジア大陸に隣接した北西太平洋の半深海底の環境にあった。ここでは、海底で泥や砂が堆積すると共に、アジア大陸の東縁に沿って形成されていた火山弧から火山灰がしばしば飛来し、火山灰層も頻繁に堆積した結果、アンモナイトなどの化石を産出する蝦夷層群が形成された。そこで研究チームは今回、同層群下部を対象に微化石分析、炭素同位体比分析、オスミウム同位体比分析を行い、OAE1aの詳細な発生年代を調べたという。
そして今回、蝦夷層群下部に数多くの火山灰層が挟まっていることが確認され、同層群のOAE1a層に挟まる複数の火山灰層からジルコンが抽出された。同鉱物は、ウランやトリウムを豊富に含む一方で鉛に乏しいことから、「ウラン-鉛(U-Pb)放射年代測定」の対象となる。測定の結果、OAE1aはおよそ1億1955万年前に発生し、その後およそ111万6000年の長期間にわたって無酸素環境が世界中に広がっていたことが判明。OAE1aの発生年代は、従来の推定年代よりも150万年以上若いことがわかったのである。