衆院選で躍進した国民民主党が主張する「103万円の壁」の解消策を巡り、守勢に立たされている財務省内で、加藤勝信財務相の手腕に期待が高まっている。国民民主は代表の玉木雄一郎氏が財務省職員だったこともあり、選挙期間中から、財務省幹部が与野党やマスコミに財源確保が困難などと説明に回ったことを知って激怒。財務省は国民民主側との調整に手間取る中、「税制に精通している加藤大臣に頼りたい」(幹部)状況というわけだ。
加藤氏は11月1日の閣議後会見で、国民民主が提唱する所得税控除額引き上げによる103万円の壁の解消に関し、「高所得者ほど減税の影響額が大きくなる」と懸念を示した。
ガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」の凍結解除についても、「流通現場への影響など実務上の課題が指摘されている」と述べた。発動された場合はガソリン価格が急落するため、その直前に買い控えが起きたり、逆に解除される前は駆け込みで購入したりする人が急増するなど混乱が予想される。加藤氏は国民民主が主張する2つの政策はいずれも課題があるとして主張を退けた格好だ。
ただ、加藤氏の正念場はこれからだろう。与野党は7日、衆院の委員長人事に関し、予算案審議を取り仕切る予算委員長ポストを自民党が立憲民主党に渡すことで合意。2025年度予算案の成立は、国会での与野党攻防の〝人質〟になる公算が高まった。
焦点の防衛増税の開始時期についても、財務省は「年内決着は首相の公約だ」(主計局幹部)との立場だが、9月の自民総裁選で茂木敏充前幹事長が増税しなくても防衛力強化に向けた財源確保は可能だと指摘したこともあり、野党が増税反対で足並みを揃えて攻勢をかける可能性もあり、予断を許さない。
加藤氏を巡っては、石破首相が政権運営に行き詰まって来夏の参院選前にも退陣すれば、次期総裁候補の一人と目されていることもあり、自民内では「石破首相を全力で守ることはしない」(閣僚経験者)との声もある。自民の弱体化で、財務省は歳出改革はおろか、財政規律がさらに緩むリスクと向き合い続けることになるかもしれない。