サイボウズは11月7・8日、幕張メッセ(千葉市美浜区)で同社最大の年次イベント「Cybozu Days(サイボウズデイズ) 2024」を開催した。
2日目となる8日には、kintoneユーザーが活用アイディアを共有し合あうイベント「kintone AWARD 2024」が開催された。2024年は、広島、札幌、福岡、大阪、名古屋、東京の6カ所で同イベントが開催され、各地区のファイナリスト企業が集結した。
見事グランプリに輝いたのは、物流機器のリユース事業を手がけるワイドループの川咲亮司さん。川咲さんは「僕とkintoneの最優記」と題したプレゼンテーションで、シュールなイラストをふんだんに使い、会場を沸かせた。
川咲さんはkintoneで基幹システムを構築するうえで、プロジェクトを進める上で立ちはだかった壁や、その壁を乗り越えた施策などを面白おかしく紹介した。
旧システムにまつわる3つの不思議
埼玉県さいたま市に本社を構えるワイドループは、ECサイト「中古でマテハン」を運営している。不要になった物流(マテハン)機器を業者から買い取り、それを中古で販売するビジネスモデルだ。
同社がkintoneを導入したのは2023年3月。それまで使っていた基幹システムをkintone上にリプレースした。それまで同社が基幹システムとして使っていた「販売管理システムP」には、3つの“不思議”があったという。
当時のシステムと業務の流れはこうだ。営業担当は見積書や発注書の作成、買い取り担当は買い取りの案件管理、そして経理担当は各種伝票の管理を行う。商品が売れた場合は、その情報をLINEやFAX、メールといった営業担当が使い慣れたツールを使ってセンターへ情報を伝達。そして、その情報を受け取ったセンターは、独自のルールでExcelによる案件管理を行っていた。
一見すると、そこまで大きな問題はなさそうだが、3つの不思議がそれぞれの担当者を苦しめていたという。
1つ目の不思議は「過大評価される備考欄」。一般的な販売管理システムの場合、販売と仕入れのデータは何らかの形でひも付けられているはずだ。しかし、ワイドループが運用していた当時のシステムでは、販売と仕入れを管理する機能が独立しており、システム的に結びつけることができない状態だった。
川咲さんは「それを運用でカバーするために敷いていたルールが、“それぞれの備考欄にそれぞれの管理番号を入力すること”でした。この運用は正直ヤバいです……。入力漏れや入力ミスが多発していました」と振り返った。
2つ目の不思議は「出荷されない予約品」。ワイドループが抱える在庫のほとんどは中古品で現品限りだ。そのため、営業担当は販売確度の高い案件が入ると、他の担当者が売らないようにするために、在庫の仮押さえを行っていた。
「みんな、仮押さえしたことを忘れるんです。案件が失注したにもかかわらず、在庫が仮押さえされたまま放置されてしまう。倉庫のあちこちに未来永劫売れるはずのない商品があふれていました」(川咲さん)
そして、3つ目の不思議が「上書きされる過去」。商品の売れ行きが想定より鈍い場合、商品価格を値引きするのは一般的な話だ。しかし当時のシステムでは、商品マスターの販売価格を更新すると、過去の売上データまですべて新価格に更新されてしまっていたという。「これはさすがにベタにツッコミました。なんでやねん!どんなシステムやと」と川咲さんは苦笑い。
しかし、こうしたことは不具合のごく一部で、パッケージソフトにカスタマイズを重ねた結果、同様のバグともとれる不具合があちこちで起こっていたという。川咲さんは「毎年年度末になると、うちの社長と会計さんは性懲りもなく頭を悩ませていました。そうです。決算が合わないんです」と振り返り、「システムが起こすファンタジーワールドからいち早く出たい。 そういう思いでkintoneの導入提案を決意しました」と語った。
洗脳アプリでkintoneの好感度がUP
kintoneによる基幹システム入れ替えを決意した川咲さん。最初に立ちはだかった壁は「旧システムに慣れ親しんだ社員からの抵抗」だ。システムを入れ替えると、どこの会社でも見られるおなじみの風景だ。
王道の解決方法の1つは「忍耐強く対話を重ねること」だが、川咲さんは「対話には時間がかかる。もっと手っ取り早くできへんか。思想強めの私はよからぬことを思いつきました。そうや、社員を洗脳してしまおう。私は社員を洗脳するためのアプリを3つ作りました」と独自の解決方法を紹介した。
1つの目の洗脳アプリ。それは、最も非効率だった業務フローを改善するアプリ「入出荷管理」だ。販売と仕入れをひも付けて管理できるアプリを構築し、「社員に『kintoneってめっちゃ便利やん』という印象を刷り込んだ」(川咲さん)という。
2つ目の洗脳アプリは「業務日報」。自由記入できちんと書かなくてもOK。コメント機能も付けて、プライベートの内容でも記入していいラフな業務日報アプリだ。「月曜日の日報はみんな週末のプライベートのことを書きがちで、ほぼ日記でした。ですが、このアプリによって社員に『kintoneって初心者にめっちゃ優しいやん』という印象を刷り込みました」(川咲さん)
そして、最後の洗脳アプリが「39ポイント」というアプリだ。これは、簡単に言えば、kintoneを通じて、日頃の同僚への感謝の気持ちをポイントとして伝えられるアプリだ。溜まったポイントはギフトに交換することができるという。
「私はこの3つの洗脳アプリを普及させることで、kintoneの好感度を上げました。その結果、社員はどんどんkintoneに慣れ、新システムによる抵抗はだんだん薄れていきました。そのタイミングで、一気に基幹システムのリプレースプロジェクトを進めました」(川咲さん)
抵抗を続けるベテラン社員、解決策は「接待○○」
プロジェクトを進めていく上で、川咲さんがまず取り組んだこと。それは各部門へのヒアリングだ。どの業務の中でどういったタイミングで、基幹システムのどの機能を使ってどのような情報を入力しているのか。基幹システム以外にどんなアプリやソフトウェアを使っているのか。各部門を渡り、あらゆる情報を収集した。
基幹システムのリプレースプロジェクトは2022年3月に始まった。同月にキックオフミーティングを行い、1年後の2023年3月のローンチを目指した。その間にアプリ開発やデータ移行、テスト運用などを進めていった。本番稼働前、新システムと旧システムによる並行運用を2カ月実施し、半ば強引に新システムのみの運用を始めた。
「正式稼働してからの2カ月間は社内からの問い合わせが殺到し、3カ月経ってようやく問い合わせが落ち着きました。ある社員がこう言いました。『あれ、めちゃめちゃ便利じゃね。kintone』と。多くの社員がやっとkintoneの魅力に気付き始めたのです」(川咲さん)
だがしかし、ある一人の社員がkintoneへの抵抗を続けていたという。「御年68の翁の抵抗は続きました。『前のシステムで○○ができたのに!“きんとん”はできないじゃないか!なんでシステム替えたの?』と。いやいや、並行運用の時に言え!なんで今になってから言うんだ……と、私は嘆きました」(川咲さん)
唯一kintoneに抗う孤高のレジスタンス。しかし、「抵抗勢力を駆逐するわけにはいかない」と考えた川咲さんは、ある解決策を思いついた。それは「接待麻雀」だ。
「飲み会からの接待麻雀。これが抜群に効果を発揮しました。20代の若手が中心になっておじいさんと一緒に麻雀を打つ。 おじいさんからすると、孫の世代の後輩が一緒に雀卓を囲んでくれる。こんなハッピーなことはありません。見事、おじいさんのハートをつかむこと成功したのです」(川咲さん)
なんだかんだで、人間関係が一番重要
kintoneで基幹システムを運用開始してから1年。導入前と比べて、各現場のオペレーションは効率的に回るようになったという。
そして、社長のストレスとなっていた決算が合わない問題。検証した結果、完璧には合わなかったが「前と違って何が原因で合わないのかが明確になった」(川咲さん)という。
「本気を出せばkintoneで基幹システムまで作れちゃいます。そのためには、問題提起とロジカルな情報整備ができる人材が社内に最低1人必要だと思います。そして、なんだかんだで人間関係が一番重要です。人間関係がしっかりしていれば、極端な話、kintoneに限らず、どんなシステムでも大きな反発なくそれなりの運用はできるはずです」(川咲さん)