欧州宇宙機関(ESA)は2024年11月6日、開発中の再使用ロケット実証機「テミス (Themis)」について、機体の組み立てを始めたと発表した。
初飛行は2025年に予定されており、試験を行うスウェーデンでは施設・設備の建設も進んでいる。
テミスとは?
テミスは、ESAが開発中の、再使用ロケットの技術実証機である。
米国スペースXの「ファルコン9」ロケットに代表されるように、ロケットの1段機体を着陸させて回収し、ふたたび打ち上げる再使用ロケットは、打ち上げコストの低減と打ち上げ頻度の向上が図れる技術として、世界中で注目されている。
欧州はこれまで、使い捨て型のロケットのみを運用し、最新の「アリアン6」ロケットも使い捨て型である。一方で、次世代を見据えて、再使用ロケットの研究、開発にも取り組んでおり、ロケットエンジンをはじめ、各要素の開発や試験が行われている。
テミスは、これまでに開発したロケットエンジンなどを組み込み、実際に打ち上げて回収し、そして再度打ち上げる実証を行うことを目的としている。
ロケットの全長は28m、直径は3.5mで、「プロメテウス(Prometheus)」ロケットエンジンを1基装備する。
プロメテウスは、ESAと、欧州最大のロケット企業であるアリアングループが共同で開発しているエンジンで、天然ガスを主成分とするバイオメタンと、液体酸素を推進剤に使う。エンジン・サイクルはガス・ジェネレーター方式を採用している。
推力は約120tfで、これはアリアン6に使われている「ヴァルカン2.1」に近い性能である。着陸や再使用のため、複数回の再着火能力や、推力を変えられるスロットリング能力をもつ。スロットリングに関しては、離昇と着陸に必要な推力110%の短時間のバースト・モードから、最低で30%まで変化させることができる。
製造には、積層造形(いわゆる3Dプリント)技術を広範囲に採用し、部品数や製造時に出る廃棄物の削減、生産の高速化などを図っている。また、最初にコスト目標を決め、製品の開発設計段階のすべてを通じて、コストがその目標内に収まるようコントロールしていく製品開発管理法「デザイン・トゥ・コスト(Design To Cost)」アプローチを採用する。これにより、「アリアン5」に使われていた第1段メインエンジン「ヴァルカン2」より、コストを10分の1に削減することを目指している。
テミスの最初の試作機は「テミス1・エンジン・ホップ・テスト (T1H)」と呼ばれている。すでに、着陸脚やエンジン、電子機器など主要システムの試験プログラムは終えており、現在はフランスのヴェルノン試験施設において、機体の組み立てが行われている。
初飛行は2025年を予定?
一方、テミスの飛行試験が行われるスウェーデン北部にあるスウェーデン宇宙公社のエスレンジ射場では、試験施設・設備の建設が進んでいる。
すでに、発射台や、推進薬を貯蔵するタンク、ロケットに供給するための配管などが設置されており、現在は最終調整の段階だという。また、ロケットの打ち上げと追跡管制を行うための運用センターの設置も始めたとしている。
フランスで組み立てられたテミスは、トラックで3000km以上離れたこのエスレンジまで運ばれ、飛行試験を行うことになる。
現在、初飛行は2025年に予定されており、まずはプロメテウスを連続的に噴射しつつ、スロットリングを行いながら、高度100mまで上昇して着陸する、小さな「ホップ」飛行を行うことになっている。
それに続く2回目の飛行試験キャンペーンでは、最終的に高度20kmにまで到達することを目指している。そして最終的には、試験の舞台を南米仏領ギアナのギアナ宇宙センターに移し、高度約100kmまでの打ち上げ、着陸、そして再打ち上げの試験へと移っていくことになる。
着陸精度は約10mを目指すという。
欧州の再使用ロケットをめぐっては、アリアングループ子会社のベンチャー企業「マイアスペース(MaiaSpace)」が、「マイア」ロケットを開発しており、そのロケットエンジンにプロメテウスが採用される。
また、関係者は、アリアン6の次の世代のロケット、いわゆる「アリアン・ネクスト」にもプロメテウスを採用する可能性や、日本を含む欧州内外の企業など販売する可能性も示唆している。
参考文献