ガス気球を使った“宇宙遊覧フライト”の商業サービス提供をめざす岩谷技研。7月の有人飛行試験で使ったキャビン実機を、宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2024」(東京・日本橋/会期:11月18〜22日)に出展している。実際に搭乗できるというので、筆者もさっそく乗ってみた。
これまで「Japan Mobility Show 2023」などで出展していたキャビンは、空を飛んだことのないモックアップだったが、今回同社がSPACE WEEK 2024の会場に持ってきたのは、7月に行った有人飛行試験で実際に使ったキャビン実機。「T-10」と名付けられた機体の10号機で、このときの飛行試験では高度20kmに到達したそうだ。
2人乗り気密キャビンへの搭乗体験に事前申込は不要(先着順)で、参加費も無料。都心のオフィス街でちょっとした“宇宙飛行士気分”を味わえておもしろい体験だ。キャビンをよく見ると、透明な窓部分や金属製の本体などに擦れキズも見受けられ、「本当に宇宙の入口まで飛んだカプセルに乗り込んでいるんだ……」などと、つい感慨に浸ってしまった。
キャビンの直径は約1.7mで、説明員によるとサイズ感はこれまでの模型からそれほど変化はないという。パッと見て気付くのは、窓がやや小さくなり、角も取れてさらに丸みを帯びたデザインに変わっていること。窓のはめ込み方もネジ止めを少なくし、つなぎ目もなるべく減らすなど気密性を強化。全体的に改良を加えた機体なのだという。
搭乗時は狭いハッチをくぐり抜けるが、シートに座ってみるときゅうくつな感じはあまりなく、想像以上にゆったりと座れた(フライト時はパイロットが同乗するので、そのときはまた印象が変わるかもしれない)。内部のシートも、本番フライトを想定したものを載せている点がこれまでの展示との大きな違いだという。
各シートの前には、キャビン内の温度や気圧など空気の状態や、今どこを飛んでいるのか把握するための経路・高度といった情報を表示する縦長ディスプレイが1台ずつ、計2台備わっている。操作に関しては電子制御が前提ではあるが、手動でもある程度できるよう冗長系を持たせており、パイロット側のシートには飛行計器のようなアナログメーターがついているのが見えた。
今回展示しているT-10 10号機だが、説明員によればこの機体はもう空を飛ぶことはなく、展示用として“余生”をおくることになる模様だ。
同社では、商業運航時は基本的にひとつの機体につき飛行は1回限りとすることを考えており、同じキャビンに客を次々乗せて繰り返し飛ばすような再利用は今のところ考えていないという。4重の安全系を実装し、“自動車や旅客機並みの安全性”をアピールしているとはいえ、「キャビンが複数回の飛行に耐えられるか検証できていない」のだそうで、繰り返し飛行を実現できるのはおそらく次世代機からになるだろう、とのこと。
気になる宇宙遊覧フライトの料金は2,400万円とのことだが、説明員曰く「正直一人乗りでこの金額ではちょっと赤字。もっと大きくしてたくさんの人に乗ってもらうことで、事業採算性をとっていきたい」とのこと。
同社では既に4人乗り(パイロット1名+乗客最大3名)のキャビンを開発しており、2026年頃の実現をめざしている模様だ。夫婦や親子、友人同士といったさまざまなパターンが考えられ、乗客の幅が拡がることに期待を寄せている。
岩谷技研では「『週末、宇宙行く?』が実現する世界へ。」をキャッチコピーとして掲げ、同社の気球技術との共創を通じて誰もが楽しめる宇宙遊覧を普及させるプロジェクト“OPEN UNIVERSE PROJECT”を推進。気球による宇宙遊覧の第1期商業フライトは、2025年に就航予定だ。
同プロジェクトではJTBや、アサヒビールなどを有するアサヒグループジャパンらをパートナーとして迎え、宇宙遊覧のアセットを活用したさまざまなビジネス展開も進めていく方針。今後の同プロジェクトの動きからも目が離せない。