東京・日本橋で開催されている、宇宙ビジネスの最前線に触れられる展示会「NIHONBASHI SPACE WEEK 2024」(会期:11月18〜22日)。目を惹く提案のひとつが、“シン・地上システム”の名を冠したインターネットイニシアティブ(IIJ)のブースだ。その狙いを担当者にたずねてみた。

  • NIHONBASHI SPACE WEEK 2024のIIJブースの様子。“シン・地上システム”というキャッチコピーと、ほぼ実寸大という地上局用パラボラアンテナのデザインが目立っていた

「『IIJが宇宙ビジネスをやる』と聞くと、通信衛星をやるのでは? と思われるかもしれないが、我々は(人工衛星から)データを受信する地上局をつくろうとしている」と担当者は切り出す。いま、盛り上がりを見せている宇宙ビジネスにおいては、多くの企業が地球観測を行う人工衛星の打ち上げをめざして動いている。しかしIIJが課題だと考えているのが、それらの衛星から“どうやってデータを受け取るのか”ということ。現状では「データを受信するアンテナが足りない」のだという。

その解決策としては、外資系事業者のアンテナに頼る方法論もあるそうだが、「やはり日本のプレイヤーとしてはそこに乗り込んでいきたい。アンテナをたくさん持って、“アンテナコンステレーション”を自分たちで作ればいいのではないか?」ということで、既存のデータセンター内に地上局をつくる「クラウド型地上局」のアイデアを提案。衛星から下ろしたデータをそのまま自社のデータセンターで処理して、自社のバックボーンを通じて顧客にデータをより速く安全に伝送する……というビジネスを考えているのだという。

  • “シン・地上システム”の概要。既存のデータセンターを活用する「クラウド型地上局」と、トラックで運べる可搬タイプの「エッジ型地上局」の2つを提案していた

担当者によると、通常のアンテナ地上局のネットワークは100Mbps程度、高速なほうでも1Gbps程度で「結構遅い」とのこと。それに対してIIJのデータセンターのネットワークは100Gbpsクラスなので、今までよりも速くデータ伝送が行え、セキュリティ面でも安全性を強化しているのが強みだという。

近しいサービスとしては米AWS(Amazon Web Services)が同様のサービス「AWS Ground Station」を展開しているが、IIJではネットワークやセキュリティに関して強みがあるとのことで、担当者は「アンテナ地上局からネットワーク、クラウド、セキュリティ、そしてIT関連の運用まで一気通貫でできる企業は、ありそうでない」と強調していた。

IIJが提案する“シン・地上システム”の稼働は、来年度(2025年度)中をめざしているとのこと。まずはこのアイデアを展示会に出展してニーズを確認し、ユニークなビジネスとして展開できることを把握できれば、低軌道衛星向けの4m級のアンテナを1基準備して、国内のデータセンターに設置する構想だという。ブースではVR/MRヘッドマウントディスプレイ「Meta Quest 3」を使って、地上局で使う4m級のパラボラアンテナのサイズ感を体感できるデモを行っていた。

  • Meta Quest 3で4m級パラボラアンテナの大きさを体感できた

  • 通常のディスプレイで見るとこんな感じだが、Quest 3の中ではパラボラアンテナのCGモデルが、現実のIIJブース内に巨木のようにそびえたつ

IIJではほかにも、エッジ型地上局を用いた“どこでも地上局”サービスを展開することも構想。可搬型の筐体にデータセンターと運用に必要な設備、セキュリティ対策を全部詰め込み、アンテナと一緒に所定の位置に運んで配置することで、データの受信効率を上げるのに寄与するアイデアで、トラックに積み込んで運ぶようなサイズ感を考えているそうだ。

地上の様子を詳しく調べるためには、地球に程近いところを周回する低軌道衛星を使うのが一般的。ただ、低軌道衛星は90分で地球を1周するので、上空から地上を撮影してその撮影データをやりとりする間には飛び去ってしまうくらい、地上との通信所要時間が限られている。こうした課題に応えるサービスとして、“どこでも地上局”の展開を検討しているようだ。