新物流の到来か――。2024年のEC物流を表す言葉だ。単に荷物を保管して運ぶ従来までの物流の役割や在り方が変化し、システムや自動設備機器の活用、DX推進が広がり、これまでとは違う「新物流」が求められる時代となった。毎年変わっていくECのトレンドへの対応に加え、今後も続くとみられる人手不足や人件費の高騰などに対応する先を見据えた運営に着手する必要がある。物流企業の課題は山積みだが、各社を取材すると、「システム」「自動化」「SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)」が今後のキーワードとして浮かび上がる。
<「物流サービス」カオスマップ>
<台頭する新物流>
物流の2024年問題を機に、物流業界全体が変化する中、通販・EC業界の物流戦略の進化が加速している。
特に台頭しているのが、「物流DX」「システム」「自動化」を取り入れた新しい物流戦略だ。一見すると当たり前の施策に思えるが、実際に展開して成果を出している会社は少ない。投資コストなどが足かせとなって運用に踏み出せない例が目立つ。
一方で、新たな物流戦略に取り組む企業は事業拡大が進む。
物流DXを推進するエクシークは、荷主の事業成長を加速させる「フルフィルメントパーク」を提供している。これまでに4200社を超えるEC企業の物流を支えてきた。これらの実績をもとに物流の枠を超えたサービスを提供し、すでにロボット導入で取引先の作業効率を4倍に高めた成果もある。
EC物流のエフ・ジェイロジも、自動化設備の導入で作業効率を高め、新たな荷主の獲得につなげている。新たな取引となる総合通販企業の業務受託にも弾みをつける。
自動化設備機器の導入は荷主の信用を得ることにもつながったといい、今後は自動化設備を連結した独自のオペレーションを構築していく予定だ。
物流大手のSBSホールディングスは、グループの強みを発揮したEC物流の開拓を進める。すでに来年4月までの新規立ち上げ計画が決まっており、大口顧客の獲得を進める。
2024年2月に大型物流拠点「野田センター」を新設し、これに続き大阪にも新しい大型拠点を立ち上げる。大型拠点の整備と並行して、自動化設備機器などによる物流運営の高度化も進む。アプリ開発や越境対応、SCMの強化も図っている。
SBSグループ各社が取り組むEC物流はさらなる強固なものになり、「SBSらしさ」が形となって表れているようだ。
<冷凍・冷蔵需要も>
冷凍・冷蔵食品の人気の高まりを受け、メーカーや小売り、EC企業などが販促をさらに強化している。こうした荷主の動きに合わせ、3PL各社の動きが活発だ。
アドレス通商は、構想から10年かけたという自前の冷凍・冷蔵物流を開始した。
自社運営により、年末などに発生する集中的な業務増加に対応するだけでなく、新たな顧客獲得にもつなげる。
これまでに培ってきた物流ノウハウやタリフ(運賃表)を冷蔵・冷蔵にも生かし、さらなる事業拡大を図る。
<越境物流は共闘時代へ>
越境EC市場も例年に増して活況だ。インバウンド需要や為替変動などアフターコロナの変化がビジネスの広がりを後押しする。
越境EC市場の成長は、倉庫側にも恩恵をもたらし、越境EC物流の倉庫は稼働率がさらに高まっている。
一方、販売手続きや物流の簡素化によって越境EC市場のすそ野は広がっているものの、荷主側の事業拡大にそのままつながっているわけではないとの声も聞かれる。こうした状況に対し、各社が手を組む「共闘施策」が目に付くようになった。
越境EC物流のTokyo Otaku Modeでは、荷主とのパートナーシップ連携を進めている。荷主をパートナーと捉えて、越境事業を軌道に乗りやすくする環境作りを包括的に支援する。すでに同社が支援した荷主では、国外販売の比率が従来の2割程度から5割にまで伸長した事例もある。越境EC需要の高まりも要因だが、同社の積極的な支援で成果が出たものとみている。
越境EC物流のソリューションはここへきて、配送料の可視化や安価な運賃で運べるシステム作りが目立つ。その進化には今後も注目が集まりそうだ。
<不動産は独自価値>
倉庫内の効率化や省人化に目を向けがちだが、物流不動産もEC物流業界にとって大きな存在になった。
霞ヶ関キャピタルは、準備を進めてきた冷凍自動倉庫の開発を始め、倉庫の運用を本格稼働していく。
冷凍・冷蔵市場のニーズに対応するだけでなく、2030年に予定されているフロン規制への対応、庫内の自動化という新たな価値も生み出す。冷凍保管サービスという新たなソリューションの提供を始める計画だ。
野村不動産は、パートナー企業や荷主・倉庫企業と連携して物流の課題解決を行うプラットフォーム「Techrum(テクラム)」が今年10月にリニューアルした。
自動化設備の導入を後押しする形で、それぞれの機器を連携し実際に稼働させて、実用性を訴求する形にした。
2024年は、市場動向やトレンドの変化を捉え、従来の形にとらわれない「新物流」が動き始めている。通販・EC物流のニーズを掘り下げた戦略が求められる。