いまから38年前、探査機「ボイジャー2」が天王星を探査した際、その磁気圏で、説明できない奇妙な現象が観測された。長らく科学者の頭を悩ませる謎となっていたが、最近の研究により新たな光がもたらされた。
当時のデータをあらためて分析した結果、それがわずか約4%の確率でしか発生しない現象を、偶然捉えたものであったことが明らかになったのである。
研究をまとめた論文は、2024年11月11日付けの『ネイチャー・アストロノミー』誌に掲載された。
天王星の磁気圏の謎
天王星は、太陽系の第7惑星で、巨大な氷の惑星である。直径は地球の約4倍、質量は約14.5倍もあり、太陽系で3番目に大きい惑星である。最も特異な点は自転軸で、その傾きは約98度、すなわちほぼ横倒しの状態で自転している。
1986年、ボイジャー2は天王星を史上初めて、そして間近で探査した。その観測データから、新しい衛星や環が発見された一方で、科学者たちは磁気圏をめぐる不可解な謎に直面した。
磁気圏は、惑星の磁場が及んでいる領域のことで、太陽から吹き出している太陽風(プラズマ)から惑星を保護する役割を果たしている。磁気圏の働きについて学ぶことは、地球のような惑星だけでなく、探査が難しい太陽系の外縁にある天体や、太陽系外惑星を理解する上で重要となる。
謎のひとつは、天王星の磁気圏内に、きわめて高い電子放射線帯があったことである。その強さは、太陽系で最も強い木星に次ぐほどだった。しかし、その放射線帯に供給されるエネルギー粒子の供給源が何なのかはわからなかった。実際、天王星の磁気圏のほかの部分にはプラズマがほとんど存在しなかった。
また、プラズマがない部分があることも大きな謎だった。なぜなら、天王星の磁気圏内にある主要な5つの衛星は、他の外惑星のまわりにある氷の衛星と同様に、活動によって水イオンが供給され、そこからプラズマが生成されるはずだと考えられたためである。そのため、当時の科学者たちは、この観測結果を説明するために、「これらの衛星は活動していない、不活性なものである」と解釈した。
明らかになった謎
この天王星の特異な磁気圏をめぐっては、長らく科学者の頭を悩ませる謎となり、それゆえに天王星は「太陽系の異端者」とも呼ばれた。
ところが最近になり、科学者がボイジャー2のデータをあらためて分析した結果、新たな光がもたらされた。
鍵となったのは、このときの太陽風の動きだった。観測したタイミングは、太陽からのプラズマが異常だった時期にあたり、それによって磁気圏の働きを一時的に強め、電子を注入して放射線帯に供給したと考えられるのだという。
太陽風はまた、天王星の磁気圏を激しく叩いて圧縮したことで、プラズマを天王星系から追い出したと考えられるという。そのため、磁気圏のほかの部分にはプラズマがほとんど見られなかった可能性が高いこともわかった。
論文の主執筆者を務めた、JPLのジェイミー・ジャシンスキー氏は「ボイジャー2がほんの数日早く到着していたら、天王星の磁気圏はまったく違ったものとして観測されていたでしょう。ボイジャー2は、わずか4%程度でしか発生しない条件下の天王星を、偶然にも観測したのです」と語る。
また、ボイジャー2のプロジェクト・サイエンティストを務めるLinda Spilker氏は「私たちは天王星の磁気圏の異常さの説明を探していました。ボイジャー2が観測した磁気圏は、ある瞬間のスナップショットにすぎませんでした。この新しい研究は、一見矛盾しているように見えるもののいくつかの謎を説明し、天王星に対する私たちの見方を再び変えることでしょう」と語っている。
この発見は、天王星の主要な5つの衛星を研究するにあたって朗報となるかもしれない。すなわち、これまではプラズマが見られないことから、それらの衛星は地質学的な活動をしていないと解釈されてきたが、プラズマの消失が一時的だったということは、衛星は活動しており、磁気圏にイオンを供給し続けている可能性もある。
天王星に探査機が訪れたのは、現在のところボイジャー2が最初で最後である。ただ、米国の全米アカデミーズは2022年に、惑星探査における次の10年計画「ディケイダル・サーヴェイ」において、探査のターゲットとして天王星を選んでおり、現在実現に向けた検討が続いている。
一方、ボイジャー2は現在、地球から約210億km離れた恒星間空間を飛んでいる。
参考文献
・Mining Old Data From NASA’s Voyager 2 Solves Several Uranus Mysteries | NASA Jet Propulsion Laboratory (JPL)
・The anomalous state of Uranus’s magnetosphere during the Voyager 2 flyby | Nature Astronomy